2022.04.24 Sun

レポート:オンライントークイベント 〈「YouTubeと学校」〜子どもたちに届ける教育の共存〉

2021年8月22日(日)に開催した、教育YouTuberの葉一さんをお招きしたオンライントークイベント〈「YouTubeと学校」〜子どもたちに届ける教育の共存〉のレポート。

・自分だけが良いと言っても仕方ない。周りの人が良いと認識することで広がっていく。

・YouTubeは選択肢の1つ。サポートツールとして使用してもらいたい。

・動画制作はストライクゾーンをはっきりとさせ、短くシンプルでOK。

教育YouTuber葉一さんをゲストにお迎えし、原口直先生(東京学芸大こども未来研究所教育支援フェロー)に司会いただき、POWER FOR TEACHERS初めての参加型イベントを2021年8月22日(日)に実施しました。ここではそのレポートを公開します。
葉一さんは、2012年からYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」で、主に小学校3年生から高校生に向けての教科書レベルの授業動画を配信し続けていらっしゃいます。当日の研究会では、葉一さんの考えはもちろん、チャット機能により全国から寄せられた参加者のコメントも紹介され、それに対しての葉一さん見解もお話いただきました。

所得差による塾に行ける・行けない問題を打破したい

冒頭、葉一さんが授業動画をYouTubeで公開するきっかけからお話がスタートしました。元々塾講師をされていた葉一さんは、家庭の所得差によって塾に行ける子ども・行けない子どもに分かれてしまうことに問題意識をお持ちとのことでした。そこで目を付けたのがYouTubeによる授業動画の配信です。YouTubeなら無料で誰でも視聴することができると思い立った葉一さん。翌日には友人からホワイトボードを借りてきて1つ目の授業動画を配信されたとのことです。以降授業動画の配信を続け、現在では登録者155万人、再生回数4.5億回、累計動画総数3,700本ほどという驚異的な数字を叩き出されています。(2021年8月22日現在)。
一方でYouTubeに対する世間の印象に言及する場面もありました。デジタルネイティブ世代でもある今の子どもたちですが、先生方の中にはまだまだYouTubeに対するネガティブな印象や教材としてのクオリティを疑う声も多いとのことです。それに対して葉一さんはひと言、「とにかく1本でいいので動画を見てほしい」とのこと。もしかしたらずば抜けて良いものではないかもしれないが、意外としっかりとしていることがわかってもらえるはず、とおっしゃっていました。YouTube自体はきちんと使えば自分の生活を豊かにするコンテンツであり、様々な選択肢が増えていく中で、YouTubeの授業動画ですくい上げることができる子どもたちもいるのではないかとのことでした。またYouTubeに対する印象も、動画を作成している当事者自身が良いものと唱えていても仕方がなく、周りの人が良いと認識していくことで、肯定的な認識もどんどん広がっていくと考えられており、そのための第一歩が「とにかく見てほしい」という言葉に含まれていました。
中盤からはイベントのキーワードでもある「共存」の話にシフトしていきます。YouTubeと学校教育の共存について問われた葉一さんが最初におっしゃったのは、「木で例えるなら、幹の部分、つまり主役は公教育・学校教育であり、YouTubeは1つの枝でしかない」とのことでした。葉一さん自身、YouTubeはあくまでサポートツールであり選択肢の1つだと考えているとのことです。とかくYouTubeは学校教育と敵対関係に置かれがちであるが、どちらが良い悪いではなく、使えるときに使えるものを使ってほしいとのことでした。
教育YouTuberとして活躍されている葉一さんですが、それでも「対面」こそが教育の醍醐味であると強く感じているそうです。子どもたちの表情が変わる瞬間は何物にも変え難いもの。今でこそコロナ禍で機会がないものの、状況が許せば葉一さん自身子どもたちと対面で授業を行いたいと意欲的に語っていらっしゃいました。

全国の参加者からのコメントとレスポンス

イベントでは合間にチャットで寄せられた全国の参加者の皆様からの多くのコメントや質問が寄せられました。以下では寄せられたコメントと、それに対する葉一さんのご意見をご紹介します。
 

・子どもたちの可能性を教員の力量で狭めたくないと思いYouTubeを含め色々な教材を使っている。

・経済格差を子どもの教育現場に持ち込ませたくないという考えは大変共感できます。

・YouTubeによる授業動画の使用の広がりが、教員採用や教員資質にどのように波及していくと考えているか。
葉一さん:個人的な理想としては、教員採用試験の一部に、自身の授業動画を提出する項目があってもいいのではと考えている。実際行う授業と授業動画ではポイントとなる部分が変わってくるため、自分を客観視するのに非常に有効である。教材として動画を作成することにより、実際に子どもたちが学んでいくことへのイメージが湧きやすくなるのではと考えている。合否に関わらず、経験として自身の授業動画を作成することを推したい。

・これからどんどんYouTubeが学校の中に入ってくると思うが、その際にどういうことに気をつけなければならないか。
葉一さん:実際に授業内でYouTubeを使うことは難しいのではと思う。今の子ども達はデジタルネイティブではあるとはいえ、YouTubeやデジタル端末の使い方のレベルに差がある。実際にYouTubeなどを授業内で使用しようと思っても、端末の使い方でつまづく子もいるだろうし、先生たちもまだ使い慣れていない。結果的に授業の流れが悪くなってしまう恐れもある。現状では、予習・復習に用いたり、教材の一つの選択肢としておくのがちょうどいいのではないかと思う。

・YouTubeはどこまで動画の使用が許されるのかがわからない。
原口:これについては、是非SARTRAS「授業目的公衆送信補償金制度」(https://sartras.or.jp)について学んでほしい。基本的には授業公衆送信の目的であれば良い。また場合によっては一定数のお金を支払う必要があるので、ルールを知ってほしい。また著作権的な観点からも、制作者の権利や収益などを守ることも大事だと思う。制作者のアイデアや制作に対する労力など、相応の対価が支払われるべきである。
葉一さん:YouTube仕様については、特に理科や社会科は難しい。社会などは動画を使用したい場面が多いが制約も多い。なので原口先生がおっしゃる通り、制度を学んでルールに則って使用してほしい。また個人的には著作権教育以外にも、性教育やお金についての教育もやるべきと思っている。YouTubeが子どもたちにとって身近な存在になっているので、その辺りの教育もしっかりとすべきであると考える。

・教員は動画作成をする必要はないと思う。教員の役割は動画を見たのちに、やはりわからないという生徒に寄り添って考えることではないかと思う。
葉一さん:その通りだと思う。必ずしも動画作成はマストなことではない。場合によっては、動画作成専門の教員がいてもいいのではとも考えている。また著作権などが許せば、普段の授業の様子を動画に撮ることができればいいのではないか。休んでいる子や、学校に行けていない子も普段の授業を見たいと思う子もいるはず。
原口:普段の授業を動画にすることは是非できればと思う。特に自身は音楽科のため学校内に自分以外の教員がいないため、他校の先生がどのような授業をしているのかとても気になっている。教員同士でも他の教員の授業の様子を見たいと思う人は多いのではないか。

・コロナ禍の対応として実際に休んだ生徒に授業のビデオ中継をしている。
葉一さん:とても素晴らしい。新しい取り組みを始めると少なからず外部から叩かれることも多いが、取り組みをおこなっている母数が増えていけばそれらの声も無くなっていくので輪を広げてほしい。

ストライクゾーンを絞った動画作り

終盤では、実際に葉一さんが動画作成において意識しているポイントをお話くださいました。葉一さんが授業動画を作る上で大切にしていることが、まず「目的」とのこと。復習のため、予習のため、あるいはどのような子のために、何のためにその動画を作るのかなどによって作り方が変わってくるそうです。そのため、その動画の目的となるストライクゾーンをはっきりさせておく重要だそうです。ストライクゾーンは欲張れば欲張るほどぶれるので、ある程度割り切る必要も出てくるそうです。教育は平等が大事とされる風潮がありますが、動画作成の上ではある程度その平等を切り落とさないと作ることができない部分があるとのこと。そのため葉一さんの動画では「基礎学習」と言い切って、動画を届ける対象をはっきりさせているそうです。
もう一つ動画作成の上で大事なことは動画の「長さ」とのこと。現在、葉一さん自身では15分を目処に作成されているそうです。コロナ禍の最初の頃、多くの先生が45分間の動画を作っていたが、作る方も非常に大変であり、何より見る子どもたちも大変。特に動画作成に慣れていない先生方は、初めのうちは5,6分の動画を作るつもりで、結果的に延びて7,8分の動画になるようなイメージで十分とのことです。また1つの動画に入れるポイントは少なくしたほうが、特に勉強に前向きになれていな子どもたちにとっては取っ付きやすくなるそうです。逆に学習意欲の高い子どもに対してなら長い動画でも、内容を盛り込んでもついていくことができるとのことでした。
イベントの最後には葉一さんの考えるYouTubeと学校の共存についての今後の理想を教えていただきました。今後、学校で受ける教育の形も変わっていくのではという前提のもと語られていたことは、先生の個性がもっと強くなっていってほしいということ。先生ごとの特色が出てきて、その中にYouTubeや授業動画が選択肢の1つとして存在しており、それらを子どもたちが自由にセレクトしていけるような形こそ、色々なものが共存している状態ではないかと考えていらっしゃるとのことでした。そのためにもYouTubeでの授業動画が、きちんとしていると思われるような活動を今後も展開していきたいと意気込みを語られていました。

まとめ

今回のイベントでは、教育YouTuberとして数々の授業動画を配信する葉一さんの自身の動画に対する自信と誇りを感じるシーンが端々に見受けられました。動画の広告について言及されたときのこと。度々、冒頭の広告を外してほしいという意見をもらうことがあるそうですが、それに対して葉一さんは「制作する立場としては1つの広告のために見てもらえないようなコンテンツだったら意味がない」と明言。いかにご自身の作成する動画に自信と誇りを持たれているのかが伝わるひと言でした。また葉一さん自身、対面授業に教育の醍醐味を見出されていたり、今後の学校教育の展望として先生の個性の強まりに期待されている点など、教育における「人」の存在をとても大事にされているように感じました。YouTubeというキーワードを通して「人」の存在を強く思うイベントでした。
 
葉一先生 … 教育YouTuber
公式HP:葉一のYouTube授業と無料テキスト|19ch(塾チャンネル)
https://19ch.tv
公式YouTubeチャンネル:とある男が授業をしてみた
https://www.youtube.com/c/toaruotokohaichi/