2020.09.16 Wed

「オンライン職業講話」を子どもたちに。

大阪府にて、多岐にわたってご活動をされている廣瀬拓哉先生へのインタビュー。

きっかけは教員4年目に出会ったネパールから来た男の子。

小田:本日は、大阪を拠点に、多岐にわたるご活動をされている廣瀬拓哉先生にお話しを伺ってまいります。まずは、いま取り組まれている複数のお仕事について、教えてください。

廣瀬先生:現在、メインとしては履正社スポーツ専門学校(北大阪校)で野球の講師・コーチをしています。その他にも、一般社団法人SDGs事業推進機構では事務局長を務めております。この法人はSDGsの推進を主とした団体で、保育園や大学、企業にSDGsのカードゲームを配布したり、SDGsを取り入れた企業のコンサルティングにもご協力をさせていただいています。

小田:今ご紹介いただいたご活躍は、まだほんの一部とのこと…。

廣瀬先生:先ほどの仕事に並行して、JICAでの日系社会青年ボランティア(2017-2019, ブラジル)の経験をもとに、小学校、中学校、高校の出前講座にお伺いさせていただくこともあります。そこでは、私の2年間の経験や国際交流、異文化理解、キャリア教育等についてお話させていただいています。さらに、今月からは京都府の中学校で非常勤講師を担当することとなりました。その学校では外国籍の生徒が多いことから、日本語教室のサポート、また学校全体として総合的な学習の時間を使ってSDGsを積極的に取り上げていきたいというお考えがあることからそちらにも協力をさせていただきます。

小田:現在4つの仕事を並行してご担当されているとのこと。正直、すごすぎます。
個人的な興味として1つ教えてほしいのですが、SDGsは世界的にもその重要性が認識され、日本も例外ではなくビジネスの世界ではSDGsの考え方を大切にすることが、ビジネスの持続可能性、もっと言うとビジネスの成功にも関係してくるという声を聞いておりますし、教育界においても、新学習指導要領にSDGsの影響がみられることから、重要なテーマとして受け止めていることが伺えます。今回のコロナを通して、廣瀬先生の中でSDGsへの気づきを新たにする場面がおありだったのでしょうか。

廣瀬先生:SDGsの前身となるMDGsが対象としたエリアは主に途上国だったのですが、SDGsでは全世界が対象エリアとなりました。今回のコロナは全世界的にダメージを受けたこともあり、経済回復をするためには先進国と途上国が互いに手を取り合うことが重要になる意味でSDGsの重要性を一つ目の当たりにした思いですし、コロナによってもたらされた活動制限からは、多くの方が「本当の豊かさとは何か」ということを考えさせられる機会となったのではないかと感じています。

小田:廣瀬先生の人生の転機はおそらくJICAに行かれたことだと感じていますが、そのきっかけとなるエピソードを教えてください。

廣瀬先生:大学卒業後は、大阪府の公立中学校で社会科の教師をしていました。4年目に初めて担任を持つことになったのですが、担任をしていた1年生のクラスに、ネパールからやってきてまだ半年程しか経っていない男の子がいました。もちろん日本語も日本の文化も理解できていない状況で、片や僕も日本語しか話せませんでした。副担任に英語の先生をつけていただいたり、子ども同士でうまくコミュニケーションをとってくれていたりと、助けられた部分は多かったのですが、僕からは何もしてあげられなかったという反省がありました。これから先も教員を続けていきたいという想いがある中で、東京オリンピックや大阪万博の開催も予定されていた時だったので、今後ますます外国籍の子どもたちが増える予測もありましたし、もしここで自分が変わらなければ、また同じ状況の子どもをつくってしまうと思い、「自分が外国人になる経験をしなければいけない」と思いました。そうしてネパールの子が何をされたら嬉しかったのか、何につまずいて悔しかったのかを僕も経験することができれば、また教員に戻ったときに活かせると思いました。そうして、JICAに応募することにしました。

小田:いま、もう一度、京都の中学校で外国籍の子どもと関わる機会に恵まれたことと思います。JICAでの経験を踏まえ、子どもと関わるうえで大切にされたいことはあるのでしょうか。

廣瀬先生:多く話しかけることがもっとも大切だと思います。話しかけてもらえるだけで、ちゃんと見てくれている、と安心を感じますし、自然な会話から語学力もあがっていくと思います。また、可能な限り生徒の国の文化について勉強をし、その子の国の言葉であいさつをしてあげることで、救われるものがあるとも感じています。こうした配慮から、外国籍の子どもも安心して学習に取り組める環境づくりをしていきたいと考えています。

「オンライン職業講話」の起こりはインスタグラムから。

小田:ここからは、廣瀬先生が発起人であり、今となっては静岡学園中学校にて毎月実施をされることになった「オンライン職業講話」について、まずはその起こりからお話を聞かせてください。

廣瀬先生:この度のコロナによってもたらされたいくつもの活動制限によって、学校としては、学校の外側の世界を知る貴重な機会である職場体験や、職業講話の実施が難しくなるのではないかと考えました。そこで、オンラインを活用したキャリア教育支援であれば私にもできるかもしれないと思ったのが「オンライン職業講話」の始まりでした。

小田:内容の設計や、実施に向けては多くの方のご協力も欠かせなかったように推察します。

廣瀬先生:動き出しにはSNSのうち、主にインスタグラムを活用しました。インスタグラムでは、教員時代の教え子やJICAの出前講座で出会った高校生たちと繋がることができていたので、まずは子どもたちに対して「いろんな職業がある中でこの職業の話しが聞きたい!というものがあれば教えてください」と投げかけてみたところ、思いのほか反応が得られました。そうしてニーズのある職業の数がある程度出てきたこともあって、次に、繋がっている大人に対して「子どもたちからこのような声があがっているのですが、もし時間があればお話ししてくれませんか」と投げかけてみました。すると「いつでもできますよ~!」と快くお力を貸してくださる方が何人か出てきてくださり、こうして第1回のオンライン職業講話が実現へと進んでいきました。

小田:対学校よりも前に、対パブリックとしてオンライン職業講話がスタートしたということですね。

廣瀬先生:当初の参加までの流れとしては、インスタグラムを使って「〇月〇日〇時~、こんな方がお話しくださいます。ご興味ある方は僕までご連絡ください」と発信し、ご連絡をいただけた方に対して、ZoomのURLをお送りするというものでした。職業講話の進行については、ゲストスピーカー1名に対して、僕がファシリテーターとして入り、お話の様子を参加者が聞いている、というものでした。ゲストスピーカーとしてはこれまでに、元JICAボランティアで日本・ブラジル・オーストラリアの3か国での教員経験がある方、社会人になってからアメリカ留学をされた方、検察庁の方、メキシコのベンチャーでお勤めかつTOEICでも900点超えされている方など、非常に多様です。
 僕の願いとしては、職業講話と言いつつも、留学話やTOEICの点数の取り方など、キャリア教育の枠に留まらないお話もお伝えできるようにしたいと考えているのと、今の自分には何の特技もないと考えている生徒にも希望を感じてもらえるような内容にしたいと考えています。

小田:この対パブリックのオンライン職業講話は現在(9月18日)も継続中なのでしょうか。そして、誰でも参加できるのでしょうか。今後、体験してみたい方向けに参加の流れ等を教えてください。

廣瀬先生:現在も継続中で、だれでも参加できるようにしています。基本的には土曜日の21時からが多いですが、ゲストスピーカーとの調整のうえ開催日時を決定し、1回につき1時間、Zoomを用いて実施をしています。金額についてですが、現時点では中高生から大人まで、どなたでも無料です。直近の開催については現時点ではご案内ができないのですが、確定しましたら、私のインスタグラムやFacebook、note等で情報発信をしたいと考えています。

小田:中・高生は参加が無料というのは、「意欲とタイミングさえあれば世界が拡がるチャンスがある」ということですね。僕が参加するにしても、自販機で缶コーヒーを買う感覚で職業講話が伺えるわけですか…。

“つながり”から学校での「オンライン職業講話」へ。全国各地、依頼も可能。

小田:オンライン職業講話は対パブリックから始まり、対学校へと広がりがあったとのこと。

廣瀬先生:きっかけは、先ほどご紹介した対パブリックでのオンライン職業講話の実施報告をFacebookに投稿したことでした。ゲストスピーカーとして協力しても良いと言ってくださっていた方が僕の投稿をシェアしてくださり、そのシェア先で静岡学園中学校にて先生をされている方につながり、「これ、学校でもできませんか?」と声をかけてくださりました。

小田:廣瀬先生の人望あってこその発展ですね。

廣瀬先生:そのような経緯だったので、対学校の実現に向けては、僕と、僕の投稿をシェアしてくれた方、そして静岡学園中学校の先生という3人でのチームで動き始めました。
 静岡学園中学校での実施については、まずはその先生のクラスでの実施から始まりました。5月5日に実施が決まり、5月8日には実施というスケジュール。緊急事態宣言下で、子どもたちは自宅から参加という状況でしたが、学校では既にGoogle Classroomを活用されていたなど、オンライン環境の整備がなされていたことから、実施自体にはそんなに困難はありませんでした。初回の講師は僕の記事をシェアくださった方(東京)が担当され、僕(大阪)はファシリテーター。Zoomでの実施でした。

小田:子どもたちの感想を含む初回の様子は5月17日のnoteより詳細をご覧いただけます。

廣瀬先生:こうしてクラス単位(約30名)での実施がうまくいったので、その次は学年(約100名)での実施をし、こちらも無事に終えることができました。その時は僕がゲストスピーカーとしてお話をさせていただきました。「もし途中でWi-Fiが切れてしまった場合」「音声が聞き取れなかった場合」など、懸念点もあったため、Zoomのレコーディング機能を活用し、もし不具合があった生徒がいた場合には、記録動画を共有するなどのバックアップ体制もとっていました。
 その後、管理職の先生にもこの活動にご賛同をいただき、県の教育委員会にもお話を出していただけるなど、快いご協力のもと、3回目、4回目と実施が続きました。今では、静岡学園独自の放課後プログラム「SGT(Shizugaku Golden Time)」のレギュラー(毎月実施)にしてもらうことができました。その際、講師には謝礼が発生するようなシステムも構築されたことで、オンライン職業講話の実施のノウハウの蓄積の他、体制も少しずつ整ってきました。

小田:「オンライン職業講話」ということであれば、全国各地のどの学校でも実施できる可能性があると思いますが、もし実施を希望する学校があればご相談させていただくことは可能なのでしょうか。

廣瀬先生:むしろお待ちしております。と申しますのも、この取組への想いとしては、コロナの影響でキャリア教育の機会が失われないようにしたいということです。気軽にご相談をいただけると嬉しいです。
 なお、恐縮ですが、この取組が持続可能なものでありたいという想いから、実施金額についても検討しているものがあります。1回の実施について、生徒40人以下の参加であれば5,000円、41人以上80人未満であれば7,000円、81人以上であれば9,000円を想定いただけるとありがたいです。
 設備については、Zoom、Teams等、オンライン通話ができる環境であれば実施が可能です。例えば、各クラスのモニターでZoomをつないでいただくことも可能ですし、生徒が自宅からZoomに入れる場合は、そのような実施も問題ありません。

小田:職業講話を実施したいけれども、引き受けてくれる方を探していらっしゃる先生は、廣瀬先生へご連絡いただくことも選択肢としてご検討いただければと思います。

全国の先生方へのメッセージ

小田:SDGsについてや、ブラジルでのご活動、キャリア教育に対するお考えなど、まだまだお聞かせいただきたいテーマがあるのですが、何卒またの機会にさせていただき、最後に、全国の先生方へメッセージを頂戴できると嬉しいです。

廣瀬先生:「置かれた場所で咲く」という言葉を僕自身はモットーとしています。どんな環境においても僕にできることはあると思いますし、それによって少しでも社会が良くなればいいなと思っています。
またこの先のことを思うと、子どもこそ、最も大切にしなければいけない存在だと感じています。「これからの未来を創っていく子どもたちのためのサポートを”一緒に”していきましょう」。”一緒に”ということを特に強く望みますし、大人のつながりの力で子どもたちの未来を創っていきたいと考えています。

小田:誰一人取り残さない教育のために、大人こそつながっていきたいものです。このインタビュー企画を通して、僕も毎週初めましての先生ばかりとお話をさせて頂いておりますが、みなさん、本当に良い先生ばかりで、勇気を出して連絡してみて良かったといつも感じます。
 廣瀬先生、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。

話し手

廣瀬拓哉先生 … 履正社スポーツ専門学校(北大阪校)にて野球の講師・コーチ/一般社団法人SDGs事業推進機構事務局長/JICA出前講座講師/京都府の中学校にて非常勤講師
mailto:hirosetakuya0225@gmail.com

聞き手/ライター

小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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