2020.08.27 Thu

「GATA-KEN Online」その裏側と想い(新潟大学附属新潟小学校)

新潟大学附属新潟小学校の小野浩由先生(体育科)へのインタビュー。

アクティブな附属新潟小が創る「GATA-KEN Online」

小田:今回は、以前6月26日の記事にてインタビューにお応えいただいた椎井先生(新潟大学附属新潟小学校)のご紹介を受け、同じく附属新潟小の小野先生にお話しを伺ってまいります。
 椎井先生とお話しさせていただいた際にも感じましたが、御校の取り組みからは「スピード感」と「チャレンジ精神」を感じており、個人的にはとても関心を寄せています。「アクティブ」というニュアンスもあるかもしれません。

小野先生:本当にアクティブな学校だと思います。会議の際にも意見が途絶えることなく、それでいて意見をする際には代案も同時に提案されていくので、常に前向きな議論が行われています。

小田:コロナの影響に伴い、オンラインを活用した取り組みにいち早く着手され、その情報発信にもスピード感があったと思うのですが、全国の先生方を対象とした公開授業研修会のオンライン化(GATA-KEN Online)も初回実施が6月12日と、当時の全国の状況を振り返るとやはり対応が早かったように思います。

小野先生:「GATA-KEN」という公開授業研修会は、3年前から「無料」かつ「土曜日」に実施をしてきました。担当する職員も、授業公開から協議会までを担当してみたい職員が1回の実施につき2名手を挙げ、自分たちで創りあげる研修会の姿を大切にしてきました。また、これまでは基本的には対面での実施をしてきたため、全国の先生方には附属新潟小までお越しのうえ、ご参加いただいていました。

小田:そのような「GATA-KEN」も、今回はコロナの影響から、担当されたい先生も増え(14名!)、オンラインでの実施に踏み込まれたということですね。

小野先生:その通りです。6月12日を皮切りに、計8回にわたって開催された「GATA-KEN Online」ですが、Zoomを用いて自分の授業実践を紹介すること、そしてその様子はYouTubeでのストリーミング配信も行いました。

小田:参加人数や参加くださった先生方からのお声も差し支えなければお知らせいただきたいです。

小野先生:計8回について、延べ人数だと約650人の先生方が全国からご参加くださいました。実際にお寄せいただいた声についてですが、「初めてのオンライン研修だったけれども分かりやすかった。今後こういう形でいろいろな先生と議論ができるようになると嬉しい」、「先生方の熱い議論から教材研究や教員という職業に対しての情熱を感じ、刺激になりました」等がありました。その他、会全体に対する満足度も高い結果となり、改めて「GATA-KEN Online」を実施して良かったと思いました。

だれもが参加しやすいオンライン研修を目指して

小田:オンライン研修会になったことで、情報さえ得ることができれば、北海道の先生も沖縄の先生も、例年以上に気軽に参加ができるようになったと思いますが、普段から研修会に行き慣れていなかったり、特に今回はオンラインという新しい実施形態ゆえに参加をしぶってしまった方もいるのではないかとも思いました。このようなハードルへの配慮もあったのでしょうか。

小野先生:ZoomのみならずYouTubeでの配信を取り入れたことも配慮の1つなのですが、それでも初めてゆえにアクセスの仕方が分からない方もいらっしゃるだろうと思い、チラシには参加までのステップを記載することで、より安心して参加いただけるような工夫をしました。また、協議会はメモをとったり見ているだけでもOK、カメラもオフ、音声もミュートでOKと、可能な限り自由に参加いただけるようにすることで、「お越しになりたい方はどうぞ一緒に勉強しましょう」というメッセージの発信に努めました。

小田:参加の自由さについて、チラシを初めて拝見したときにびっくりしたのを覚えています。「こんな研修会なら参加してみたい!」と僕も思いましたし、参加への一歩が踏み出しやすいと思いました。事前申し込みさえ済ませれば、当日は家にいながら、URLをクリックするだけで参加できるなんて…。

小野先生:コロナ禍において、勉強をしたいという先生方が全国にたくさんいらっしゃるにもかかわらず、「GATA-KEN」の開催に困難があったもどかしさを何とかしたいと思っていましたし、オンラインという実施方法を採用するにあたって、それが参加者にとっての壁になってはいけないとも感じていました。そのため、初めてオンラインで参加する立場を想像して、本当に参加しやすいものになっているか、ハードルは高くないか、という視点で検討を重ねていきました。また、参加してくださった方には「参加してよかった」と思っていただけるよう、可能な限りの工夫を試みました。

小田:「GATA-KEN Online」の設計には、小野先生をはじめ、御校の先生方の優しさ、使命感が詰まっているのだと感じます。一方で、当日ご参加くださった先生方より「もっとこうしてほしかった」というようなお声も寄せられているのでしょうか。

小野先生:例えば、「Zoomの場合、早口だと聞き取りづらかった」という進行上の課題や、「1時間では短いのでもっと長くしてほしい」という前向きな課題もお寄せいただきました。また、運営側の課題として浮上したこととしては、YouTubeでの配信に一部不備があったこと、Zoomの回線が一時的にダウンしてしまったことの大きく2点が挙げられました。

小田:参加者の方にも課題を挙げていただけるというのは、この「GATA-KEN Online」が、みなさんの手でブラッシュアップされ、鍛え上げられていくという意味で、とても素敵なことだと感じました。また、きっと御校の先生方は、それらを真摯に受け止め、次回のより良い開催に向けて善処してくださるという印象もあります。
 参加者自身の負担を最小限にとどめつつ、本音の議論もできる、そんなオンライン研修会が「GATA-KEN Online」なのだとイメージがつかめてきました。

体育・コロナ・つながり

小田:6月17日には小野先生も授業提案、協議会の実施をされたとのこと、その回はどのような内容だったのでしょうか。

小野先生:6月は音楽の米山と一緒に発表を行いました。体育と音楽の共通点と言えば共に技能教科であることですが、特に今回はコロナの影響を受け、授業実施において様々な活動制限がなされた意味でも共通点を持つことになりました。技能教科は友達と関わりあいながら学ぶことが大切であるにもかかわらず、ペアワークができなくなったり、手をつなぐなどの身体接触が制限されたことは学びの障壁にもなりました。このような状況となり、「みなさん困っていませんか?どうやって授業をされていますか?私たちはこんな風に取り組んでいますよ」というような全国共通の悩みを会の中心に据えました。

小田:小野先生の授業提案、詳しくお伺いしたいです。

小野先生:小学校2年生を対象とした「走の運動」の授業提案を行いました。取り扱ったのは、自分の走るコースにコーンや輪っか、跳び箱などを置くことでいろいろな走り方を学ぶ領域だったのですが、今回は対象である2年生に対して、「1年生に向けてこのコースを作るとしたらどういうコースを作ってあげますか?」という風に問うてみることにしました。対象を自分ではなく他者にしたことで、思考力・判断力・表現力が2年生の中でも育まれると考えました。

小田:対象を自分たちではなく1年生としたことで、子どもたちの中で1年生の特性を思い浮かべながら「コースは簡単な方が良いよね!」等、考えることができるということですね。まさしく思考力・判断力・表現力が発揮される設計と感じます。

小野先生:それに加えて、今回のコロナによって異学年交流もしづらくなり、休み時間もなかなか一緒に遊ぶことができなかったことから、相手の立場に立つことや、相手のことを考えるという思考を体育の授業の中で発揮させたかった、という想いがあります。

小田:世界的にコロナの影響を受けている「つながり」について、体育の授業を通して考えるきっかけを提供されている点、とても今日的だと感じました。
 6月の「GATA-KEN Online」から少し話が広がってしまいますが、今回のコロナでは友達と遊ぶという「つながり」の機会が減るのみでなく、家の中で過ごす時間が増えたりと、子どもたちの運動機会も減っていることが懸念されています。このような状況に対して、体育の授業として何ができるのかということも問われている印象をもっています。

小野先生:確かに子どもたちは運動する機会が奪われていると思うので、体育の授業ではできるだけ運動量を確保した授業をしたいと考えています。ただ、一方で「友達と関わる」、「自分と関わる」、「教材と関わる」という面を増やした体育の授業も提案できるのではないかという期待があります。先ほどの私の実践例についても、ソーシャルディスタンスで身体的距離があったとしても、1年生のことを想い、繋がっているという「情意面」への学びだったり、体育の楽しさに気づく機会にもなると感じています。技能を高めていく体育も大事ですが、「いま自分が運動している価値って何なんだろう」と考える機会を提供することが生涯体育につながっていくのではないかとも考えているため、このあたりは秋以降に研究を進めたいと思います。

小田:とても粗野な表現で恐縮なのですが、小野先生のお話しを伺っていると「体育って奥が深いんだな~」と感激しました。

小野先生:「身体を動かして楽しい」ということだけではなく、「身体を動かす意味」を考えられるようになると、次の体育の授業での運動量増加へ自然とつながっていく予測もありますし、そこから「身体を動かす意欲」が育まれ、生涯体育、生涯スポーツというところへつながっていってくれるのではないかと期待しています。

附属としての使命

小田:「GATA-KEN Online」は附属としての使命を担った取り組みであるとも思います。そのねらいを今一度教えてほしいです。

小野先生:大きく2つあります。1つ目は地域の研修機関としての使命です。新潟県(オンラインでは全国)の先生にとってよりやる気と勇気が湧いてくる研修になるよう努めています。地域の実態に応じた研修会になるよう、アンケート等で声を集め、内容や開催方法を改善しながら取り組んでいます。2つ目は研究校としての使命です。現在の状況だけでなく、数年先の教育を見据えて先導的・実践的な研究に取り組むよう努めています。今は、例えばコロナの流行が収束した後、またICT環境が整った後、学校や教師の役割は何か、子どもにどんな力を育むべきか、職員全員で真剣に議論をしています。
 日本全国の先生方にも積極的に発信し、ご批正をいただいたり一緒に考えたりしたいという思いから、ホームページ、SNSを活用した情報発信、そして「GATA-KEN Online」や初等教育研究会等の開催を力強く進めているところです。

小田:全国の附属学校のみならず、研究指定校等になっている学校も、今年度はオンラインでの成果発表を検討されているかもしれません。もし、オンラインでの研修実施について詳しく知りたい、というニーズがあった時、御校へのご相談をさせていただくことは可能なのでしょうか。

小野先生:私どもも、今回、オンラインでの実施方法についてはたくさんの模索をしてきたところですため、ノウハウを広く紹介できれば嬉しく思っています。具体的なお問合せ方法についてですが、HPのうち「with 附属新潟小」をご覧いただき、「◎お問い合わせはこちらへ」に記載のある担当まで電話でもメールでもご連絡をいただければ、ニーズに応えながらお伝えすることができると思います。

全国の先生方へのメッセージ

小田:最後に、全国の先生方にメッセージがあればお願いします。

小野先生:「合言葉『これならできる』が未来を拓く」を私からのメッセージとさせていただきたいです。コロナ禍でこれまでのような研究会ができそうにもないときに、あきらめるのではなく、職員全員が「じゃあ、どんなことならできるのか?これならできそうだ」という発想に切り替えたことが、今の「GATA-KEN Online」をつくりました。そんな思いからのメッセージです。

小田:椎井先生に引き続き、小野先生へのインタビューもさせていただき、すっかり附属新潟小のファンになってしまいました。お忙しい最中、インタビューにお時間をいただき、本当にありがとうございました。コロナ禍における初めての2学期も陰ながら応援しております。

話し手

小野浩由先生 … 新潟大学附属新潟小学校教諭。

聞き手/ライター

小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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