2020.09.24 Thu

「ICT×教育」に願いを込めて(前編)

埼玉県立特別支援学校さいたま桜高等学園にてお勤めの関口あさか先生へのインタビュー。

ICTは障害のある子どもの困難さを助けてくれる存在。

小田:今回は埼玉県立特別支援学校さいたま桜高等学園にてお勤めの関口あさか先生にお話しを伺ってまいります。まずはじめに、特別支援学校と一言で言えども、学校ごとに特色がおありと存じます。学校の特色も含め、自己紹介をお願いします。

関口先生:私の勤務校は、軽度の知的障害のある生徒が障害者雇用枠で一般企業への就職することと、職場定着の向上を目指す学校です。開校からの企業就労率は平均90%以上、就労定着率も90%以上となっていて、本人の希望や適性に合った就職に向けて教育活動を行っています。私はここで進路指導を担当しています。

小田:関口先生のご活躍は、特に障害のあるお子さんとのICTを用いた取組について顕著に感じております。

関口先生:私は教員になる前から、障害のある子どもたちにテクノロジーを活用して、コミュニケーションの促進を図ったり、学習に困難のあるお子さんの場合はその困難さを支援できるような活動、ペンを持つことができない等の肢体不自由があるお子さんの場合の表現活動の支援を行っていました。その他、5年ほど前にマイクロソフト認定教育イノベーターになることができ、3年ほど前には、テクノロジーを使って子どもたちのワクワクする学びを生み出すための「MIEE Talks@Admin.」(ミートークス アドミン)という教員コミュニティを立ち上げました。「MIEE Talks@Admin.」では、障害の有無にかかわらず、子どもが楽しく学び、表現できるためのワークショップ、また保護者ならびに教員向けに体験しながら学ぶことができるセミナーの企画・実施を行っています。

小田:初歩的な質問で恐縮なのですが、ICTを利用した教育活動の利点を教えてください。

関口先生:障害のあるお子さんには、自分一人の力ではどうしようもない困難さというものがあります。そのため、「努力すればできる!」というような指導を教員が行ってしまった場合、それゆえに自信を失ってしまうなど、苦しめられている子どもがいることも確かです。例えば、寝たきりのお子さんでコミュニケーションを取ることが難しい場合でも、ICTを使えば視線入力などを使って文字を打ち込むことができ、コミュニケーションをとることが可能になるケースもあります。また、自閉症のお子さんの場合はしゃべってコミュニケーションをすることに困難さがある子もいるので、絵カード等のアプリを用いることでコミュニケーションが図れるようになるケースもあります。

小田:これから子どもたちが生き抜かなければいけない時代はテクノロジーだらけと言ってもよい世界だと思います。テクノロジーを味方に、子どもたち一人ひとりの良さを最大化することは、むしろ求められている発想のようにも思います。

関口先生:学習障害と呼ばれる読むこと、書くことに困難さを感じているお子さんは、頭では理解できているんだけれどもうまく漢字が書けなかったり、人よりも時間がかかる場合があります。そうしたお子さんは、例えば書き取りの宿題が出たとしても、夜遅くまで一生懸命やっているにも関わらず宿題が終わらず、テストでも点数が取れないということになります。この場合、今ではスマホのフリック入力でも良いですし、キーボード入力にすることで書くことができるようになる姿も見たことがあります。このような、書くことに困難さがあることで文章を表現することに到達できなかった子どもたちが、テクノロジーを活用することによって、本来学ばせたいところに行きつく姿を見ていると、障害がある子どもたちにとって、スマホやiPad、パソコンというものは困難さを助けてくれる存在だと感じています。

小田:関口先生のお考えについてはTEDx「健常者をやめる」(YouTube)でも拝聴しました。ここでは具体的なお子さんの事例もあり、テクノロジーの活用や得意なところを認め伸ばすことによって、子どもたちが新しい活力と共に前進していく姿を感じました。教員にとっても支援の幅が拡がり、子どもたちの表現や学習を保障していく手段が拡がることにテクノロジーは寄与していると感じます。

マイクロソフト認定教育イノベーターになった。

小田:関口先生はマイクロソフト認定教育イノベーターになられていること、先ほどご紹介があったと思います。こちらにご関心をもたれたきっかけを教えてください。

関口先生:かねてより、テクノロジーを活用して障害のあるお子さんの表現や学びを保障する取り組みをカンファレンス等で発表させていただいていたのですが、その際に、マイクロソフトとのご縁が生まれました。例えば、視線入力はiPadではできないのでWindowsを使わなければいけないのですが、そのような具体的な方法を相談に乗っていただく中でマイクロソフト認定教育イノベーターを紹介いただき、応募することにしました。当時は30人いるかどうかだったのですが、今では250人程度いると聞いています。

小田:マイクロソフト認定教育イノベーターになることで得られるメリットはあるのでしょうか。

関口先生:例えば、Surface(Microsoft, タブレットPC端末)を一定期間貸し出してくれたり(返却時には報告書の提出が必要)、クラウド付きのマイクロソフトアカウントが付与されたり(Office 365 EducationやMinecraft: Education Editionの利用が可能)、研修等にも参加できる他、マイクロソフトから新しいアプリケーション等が出た場合は連絡をいただくことができます。

小田:それだけのサービスが無償提供されるということは、マイクロソフトから課せられたミッションもあるのでしょうか。

関口先生:マイクロソフト認定教育イノベーターは毎年応募式で、1度なったらずっと継続できるものではありません。採用年度中は、学校内でどのようなICT活用をしたのか、また課題が出されるのでその課題を含めた報告書の提出が義務付けられています。
課題について、例えば今年は「PowerAppsを使ってアプリをつくる」というものでした。私は絵は得意なのですが、プログラミングは得意ではないので、マイクロソフト認定教育イノベーターの中で、仲の良い先生のうちプログラミングが得意な先生とコラボさせてもらって課題をクリアしました。知り合いの教務主任の先生の事例ですと、コロナで出退勤の管理が難しくなったことから、出退勤を管理できるアプリを作られていました。

小田:通常の学校業務でお忙しいにもかかわらず、アプリを作るというのはハードルが高い印象もあります…。

関口先生:「無理だよ、そんなもの!」という意見もあるかと思いますが、マイクロソフトはアプリを作るための研修等を丁寧に、かつコンスタントに実施されているので、一人では難しいことも、マイクロソフト認定教育イノベーターになれば、すぐに教えていただけるような環境に身を置くことができるので、挑戦してみようという方には向いているように感じます。

小田:マイクロソフト認定教育イノベーターになるための条件についても教えてください。

関口先生:大前提としては教育関係者のみが応募できる認定となっています。また”Change Makerになる”ということも重視されているので、自分が使うだけではなく、他の先生に対して実践を発信することなどが条件になっています。既に締め切ってしまっているものではありますが、今年度の応募条件等がこちらにまとまっていますので、ご参考ください。

MIEE Talks@Admin. 教員コミュニティ

小田:イクロソフト認定教育イノベーターに由来する取り組みとして、関口先生は「MIEE Talks@Admin.」の代表もされているとのこと。発足のきっかけ等、教えてください。

関口先生:私がマイクロソフト認定教育イノベーターになった当時、横のつながりがほとんどありませんでしたし、埼玉県の先生も一人もいらっしゃらず私だけで、少し寂しく感じておりました。先ほども少しお伝えしましたが、マイクロソフト認定教育イノベーターでは実践を発信することも大切な役割になっています。そこで、「TED Talks」のように老若男女関係なく自分の考えや実践を発信し、教員が互いを尊重し合うコミュニティをつくりたいと「MIEE Talks@」を立ち上げました。そののち、「MIEE Talks@」が発展し、支部ができていったことから、「MIEE Talks@Admin.」という名称になりました。

小田:どのような方が所属されているのでしょうか。

関口先生:現在は30名強で運営をしていて、ICTを教育に活用している全国各地の様々な学校種の教員が所属しています。メンバーには教育界のノーベル賞といわれるGlobal Teacher PrizeやICT夢コンテスト等での受賞歴をお持ちの先生や著書がおありの先生、インタビュー記事に掲載されている先生などが多く所属されています。
余談にはなりますが、メンバー同士がつながっているSNSがあり、そこでは毎日楽しい話題や苦労話が行き交っています。一匹狼になりやすいICTの先生同士が、「おかえり」「ただいま」を言えるような、温かいコミュニティになっているという印象を最近は感じています。

小田:このコミュニティでは、ワークショップの企画・実施もされているとのこと。

関口先生:イベントに参加してくださった方の累計は、先日2000人を超えたところです。発足から3年間で、面白いことができていると感じています。

小田:いくつものワークショップを実践されてきたと拝察していますが、具体的にご紹介頂けるものはありますか。

関口先生:私たちが普段使っている「フォント」にも、いろんな種類があります。例えば、「怒っているように見える”あ”」や「やる気のなさそうな”あ”」など。そうした自分の想いに近いフォントを使って遊ぶ「フォントで遊ぼう!表現しよう!」というワークショップを株式会社モリサワの協力を得て行いました。ここではまず、「ドカーン!」という言葉をテーマに、どういうフォントを使えば「ドカーン!」らしさが表現できるか、楽しく試行錯誤しました。その後は、夏休みの思い出の写真と、その思い出を象徴するフォントを使って絵日記を書く、というように展開していきました。また、UDフォント(ユニバーサルデザインフォント)など多くの人にとって読みやすいユニバーサルデザインフォントを使って、どのフォントが自分にとって読みやすいかを体験して、『マイフォント』を探すワークショップも行いました。

小田:教員向けとしては、毎年2月にマイクロソフト様と株式会社バザール様とタイアップの上「Microsoft Education Day」を実施されていたり、今となっては当たり前でも、コロナの影響が出始めた今年3月では珍しかった教員向けオンラインセミナーも先駆けて実践されていたりと、活動の幅の広さを感じます。
 「MIEE Talks@Admin.」の最新情報は、主にFacebookページにて配信をされているとのこと。もしよろしければチェックいただければと思います。

ICT活用実践集

小田:関口先生が代表をされている「MIEE Talks@Admin.」のご活躍の1つとして、「ICT活用実践集」を拝見したのですが、こちらについてもご案内をいただけないでしょうか。

関口先生:真面目な実践集はたくさん世に出ているのですが、そのような実践集は本当に多くの先生方に使っていただけるのか、疑問がありました。そこで、実際に現場の先生方が「ちょっと使ってみた実践集」を作ってみました。今となっては当たり前ですが、「写真を撮って一日を振り返る」とか、虫の観察をするときに「写真を撮って拡大してみる」とか。そのような小さい実践を集めてみたところ、非常に多くの先生に喜んでいただくことができ、「こうやってICTを使えばいいんだ!」というような実感をもっていただくこともできたと感じています。

小田:まさに「明日から使える教員目線の実践集」ということですね。

関口先生:現在は2種類の実践集をこちらからダウンロードいただくことができます。2019年度版ではその冒頭に、著名な先生方が明日から使える小さな実践をたくさん載せてくださっていたり、後半では大きな実践も掲載しました。先生方がパッと見たときに、「これならできそう!」と思えるような実践集を作ることをとにかく大切にしました。

小田:掲載されている一部の実践をご紹介いただけますか。

関口先生:例えば、Global Teacher Prize 2019の最終候補者10人にも選出された正頭英和先生の実践では、明日から活用できるICTをテーマに Microsoft PowerPointのTranslator機能を紹介くださっています。

 その他、私の事例にはなりますが、「Sphero SPRK+」という光るプログラミングロボットを使った実践を紹介しました。ここではプログラミングを学ぶのみでなく、プログラミングを表現へつなげていく、ということを試みました。

「MIEE Talks@Admin.」は小学校、中学校、高校、特別支援学校の先生が入り混じったコミュニティです。それゆえに実践集には非常に多角的な実践が集約されました。

小田:2019年度版はもちろんのこと、2020年度版もご覧いただくことで、全国の先生方にICTの新たな教育的活用を感じていただけることと思います。

(後編へ続く…)

話し手

関口あさか先生 … 埼玉県立特別支援学校さいたま桜高等学園教諭。マイクロソフト認定教育イノベーター。MIEE Talks@Admin.代表。UDフォントエバンジェリスト。

聞き手/ライター

小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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