2021.02.18 Thu

オンライン修学旅行の実施で見えてきたこと。(後編)

茨城県立協和特別支援学校にてお勤めの市塚将人先生へのインタビュー。
  • オンラインでも、修学旅行はやっぱり楽しい。設計のヒントは「五感」。
  • 設備面での課題が残る一方で、アフターコロナでも応用可能性アリ。
  • 「正しい」選択肢の他にも、「わくわくする」選択肢も大切にする。
  • 五感を通して沖縄体験をする、オンライン修学旅行。

    小田:今日は、前回に引き続き、茨城県立協和特別支援学校にてお勤めの市塚将人先生にお話しを伺ってまいります。
     前回は、オンライン修学旅行の着想から、実施に至るまでの流れを教えていただきました。そこで今回は、オンライン修学旅行の具体的な内容から教えていただきたいと思います。

    市塚先生:今年度については、本来であれば修学旅行に行くはずであった4日間を修学旅行週間とし、次のような流れでオンライン修学旅行を実施しました。

    1日目(事前学習)
    2日目以降でお世話になる団体について知り、質問を考える活動。

    2日目
    一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー様等の御協力のもと、エイサー演舞体験を含む沖縄学習。

    3日目
    あうたび合同会社様の御協力のもと、シーサーの絵付け体験やサーターアンダギー作りの見学、沖縄の海を見せていただく他、三線の演奏・踊り体験等のオンライン修学旅行ツアー。

    4日目
    沖縄グーグル旅行、沖縄の海を作る活動、沖縄の生き物を作る活動、ジンベイザメ作りの活動をグループごとに順番ですべて体験。最後に振り返り。

    特に2日目にご協力をいただいた一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー様は、費用がかからなかったという点でとてもありがたかったですし、エイサーの演舞体験のために学校までお越しの上、生で見せていただけたので、生徒たちはとても喜んでいました。

    小田:4日間の流れがとても充実していて、沖縄について見聞を広げる他、「沖縄に行ってみたい」という意欲も自然に湧いてくるようなデザインに思います。とりわけ、3日目のオンラインツアーについて、子どもたちの反応に興味があります。

    市塚先生:オンラインツアー中、沖縄現地と本校は、ずっとZoomでつなぎっぱなしになっており、沖縄の現地の方にやちむん通りや海に行っていただいたり、三線の演奏を聴かせていただいたり、シーサーの絵付け体験もさせていただきました。生徒たちは、海のきれいさに心が躍っていたり、あうたびさんのオンラインツアーでは、海ぶどう等を送っていただいていたことから、それらを食べたりして、味覚からも沖縄を楽しんでいる様子でした。
     やはり、見たり、食べたりという五感に働きかけられるような要素があったので、生徒たちにとって、修学旅行に行けなくても、それらしい体験はできたのではないかと振り返っています。

    小田:市塚先生をはじめ、御校が一丸となって準備された特別な4日間は、子どもたちにとっても特別な思い出になったことと思います。
     今回のオンライン修学旅行を実施するにあたって、こういった体験をさせてあげたい、こういう学びを期待していたというような事前計画はおありだったのでしょうか。

    市塚先生:今回オンライン修学旅行を体験した学年は、2年生の時から、「沖縄ってどんなところ?」、「今住んでいる茨城県と沖縄県の違いってなに?」というような学習をしていたのですが、3年生になってから延期になり、実際に修学旅行に行けなくなりました。そうした中での教員側の想いとしては「どうにか楽しい思い出を残してあげたい」というものでした。
     ねらいという観点では、「オンライン」という方法を使うことで、こうして遠くにいる人とつながることができて、自分が知らない世界を知ることができる、ということは子どもたちに伝えたいと思っていました。

    小田:沖縄観光コンベンションビューロー様は、本来であれば、沖縄に修学旅行に行く学校に対して、事前・事後学習を実施されているようですが、今年度に関しては、コロナの影響でやむなく修学旅行を中止せざるを得ない学校も多く、しかし修学旅行に行くために沖縄学習は進めていた学校さんの想いに寄り添い、沖縄への修学旅行を断念された学校にも沖縄学習のサポートをされていたようです。
     オンライン修学旅行を終えた子どもたちの様子はいかがでしたか。

    市塚先生:マングローブの木ってこうなっているんだ、という気づきを得た生徒もいれば、どうしてシーサーがたくさんいるのか、その理由に気づけた生徒もいました。
     修学旅行というと、生徒同士の役割があり、見聞を広めながら協働の活動を行っていくという点が一般的には大切にされていて、今回についてはそれらへの焦点化が叶わなかったのは実態としてありますが、一方で、オンラインならではの経験ができたとは感じています。

    小田:もちろん、修学旅行に行けるに越したことはないのだとは思いますが、コロナを横目に見ざるを得ない状況の中、オンライン修学旅行という1つの選択肢が新たに生まれ、そのノウハウや気づきが御校に蓄積されたことは大きな成果と言ってよいのではないかと感じています。

    やってみたから見えてきた、課題と応用可能性。

    市塚先生:オンライン修学旅行については、正直、課題点も整理し、発信しなければいけないと感じています。
     まず、今回の実施方法の場合、大きな画面を全員で見ることになったため、基本的には生徒たちに対して、映像を静かに見ることを促す態勢となってしまいました。それによって、せっかく沖縄とリアルタイムでつながり、先方が問いかけをしてくださったとしても、反応がしづらい状況がありました。沖縄側も「問いかけてみたけどちゃんと聞こえているかな?」と不安になる可能性があると思いました。

    小田:リアクションも大切なのかもしれませんね。オーバーに思えるほどにうなずいてみたり、手を振ってみたり、「え~!」とか「お~!」とか言ってみたり…。

    市塚先生:沖縄側から海を見せていただく場面もあったのですが、その時の風の音が大きいといったノイズへの課題や、潮が引いたとき、マングローブの根元にカニがいたりするのですが、「カニですよ~!」と声をかけていただいても、画面越しだとカニを見つけるのが意外と難しかった、ということもありました。これらは設備面での課題とも言えるので、現段階ではしょうがないとは思うのですが…。

    小田:今回の実施を通して、オンライン修学旅行の良いところと課題が市塚先生の中で整理されていることと思いますが、この事例は、来年度以降、御校で活かされていく予定はあるのでしょうか。

    市塚先生:個人的な意見にはなりますが、例え今後修学旅行に行くことができるようになったとしても、事前学習の充実を図る目的としてオンライン修学旅行のノウハウが活用できるのではないかと考えています。

    小田:確かに、共感します。

    市塚先生:「来月沖縄に行きます」という場合、その前に、お伺いさせていただく先の方とオンラインでお話ししてみようとか。そうした後に実際にお伺いすることで、「本当に会えた!」という、従来の修学旅行に新たな感動を加えられるように思います。
     あとは、特別支援学校の場合、農作業や園芸などの作業学習を実施している学校が多いと思いますが、プロの方と連携して作業学習をすることも考えられると思います。例えば、「日本で一番ジャガイモを作っているところってどこだと思う?」、「ジャガイモづくりのプロに作り方を聞いちゃおうよ」など、そうした流れで、身近な人ではなく、あえて北海道の方につながせていただくということもできると思います。

    小田:特に来年度からはGIGAスクールが走り出すこともあり、そうした取組が広がっていくことは望ましいようにも思います。そうして、教員が活用できる学びのためのリソースが増えていくのだと思いますし、従来の、学校を中心とした地域という概念もオンラインが加わることで複層的になり、広がっていくのだと感じます。「学びのデザイン」はより多様化するとも言えるかもしれません。

    市塚先生:総括的になるかもしれませんが、今回のオンライン修学旅行を振り返ってみて、コロナの出現によって大変な混乱を強いられましたし、高等部3年生の、学校生活が最後である生徒と生活を共にする身としても厳しい一年になりましたが、「コロナだからダメだった」ではなく「コロナだからできた」ということもあると感じています。
     また、学校は既存の枠の中での行動をしがちなのですが、今回、一生懸命企業さんに声掛けをした結果、「一緒にやりましょう」と言っていただくことができ、学校の外に目を向けることで学びが広がることもあるのだとも感じました。

    小田:「社会に開かれた教育課程」とも関連がありますね。

    全国の先生方へのメッセージ

    小田:最後に、全国の先生方へメッセージをお願いします。

    市塚先生:私がいつも大切にしているのは「いかにわくわくするか」ということです。この記事をご覧くださっている先生方も本当に大変な毎日をお過ごしと思いますが、「こっちの方が正しい」ということよりも、「こっちの方がわくわくする」ということも選択肢に入れていただけると嬉しいと思っています。みんながわくわくして学べる環境を、みんなで創っていきたいですね。

    小田:市塚先生、今日はありがとうございました。

    話し手

    市塚将人先生 … 茨城県立協和特別支援学校教諭。

    聞き手/ライター

    小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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