2021.02.11 Thu

オンライン修学旅行の着想から実施まで。(前編)

茨城県立協和特別支援学校にてお勤めの市塚将人先生へのインタビュー。
  • オンライン修学旅行の着想は、学外の研修から。
  • 「オンラインツアー」に参加してみると、五感刺激もあって行ったつもりになれた。
  • 「あうたび合同会社」さんと管理職の快い協力のおかげで、実現へ動き出した。
  • フットベースボールの他、自分のために、子どものためにメンタルトレーナーの資格も。

    小田:今日は、茨城県立協和特別支援学校にてお勤めの市塚先生へお話を伺ってまいります。まずはじめに、自己紹介をいただけますか。

    市塚先生:今年度で教員11年目となり、これまでずっと、知的な発達に特徴のある子どもたちと向き合ってきました。今は高等部で4年目になりますが、以前の勤務校も含めると、小中高のすべての子どもたちと関わる機会があり、幅広い経験をさせていただいてきました。
     現在の勤務校は高等部がコース制となっており、入学試験の時にコース分けがなされます。私はその中でも4年間、最も支援を要する子どもたちのコースを担当しています。

    小田:学校でのお勤めの他、地域でのご活動もされていらっしゃるとのこと。

    市塚先生:障害者スポーツの1つにフットベースボールというものがあるのですが、教員2年目の頃から茨城県内のフットベースボールの団体に関わらせていただいており、ここには知的障害のある選手が参加しています。関わり始めてから10年が経とうとしており、勤務校の卒業生もいます。

    小田:練習頻度や、大会の有無も気になります。

    市塚先生:コロナになる前は月2回の練習をしていましたが、現在(緊急事態宣言期間)は練習ができていない状況です。
     フットベースボールは全国障害者スポーツ大会の正式競技にもなっているので、全国大会が1つの目標でもあります。関東ブロックでは東京が強く、全国大会でも東京が強いので、「打倒東京!」を掲げて練習に励んでいます。

    小田:コロナによる自粛等の影響で、ご自宅で過ごされる時間も増えたことと思いますが、何か新しいことを始められた、ということもあるのでしょうか。

    市塚先生:メンタルトレーナーの資格を取ろうと、勉強をし始めました。

    小田:資格を取るというのは並ではない努力が必要だと思いますが、なにかきっかけがおありだったのでしょうか。

    市塚先生:教員生活も10年を超え、これから先、どういった働き方をしていこうかと考えたことが1つのきっかけでした。私は特別支援教育にとても魅力を感じているので、だからこそ私がさらに成長をして、子どもたちに良い影響を与えられれば良いなと思いました。先生自身も元気で、前向きであれるよう頑張りたいと思った経緯もあるかもしれません。

    オンライン修学旅行の着想は、学外での研修から。

    小田:この度、インタビューのお願いをさせていただくにあたって、御校が取り組まれたオンラインでの修学旅行について、特にお伺いしたいと考えておりました。「オンライン修学旅行って楽しいの?」、「そもそもどうやって実現したの?」など、まだまだ全国では知られていないところもあるかと思います。
     まずは、オンライン修学旅行を実施するに至った経緯について、教えてください。

    市塚先生:本来であれば、今年度は昨年の5月に沖縄に行く予定でした。ただし、緊急事態宣言が発出されるよりも前に状況的に難しいと判断し、ひとまずは11月に延期しました。その後は、先が見えない中でも、なんとか実現できる方法を見つけようとする日々が続きました。
     一方、検討を重ねる中で、そもそも「子どもたちを飛行機に乗せることが可能なのかどうか」という現実的な話になり、場所を変えることが賢明という意見もありましたし、例え場所を変えたとしても、修学旅行に行かせるかどうかについて意見がまとまりませんでした。それは、先生方の意見だけでなく、生徒自身や保護者の方の不安の声も総合した結果で、当時は本当に、何が正解か分からないという状況でした。

    小田:状況、お察しします。ただ、子どもたちのために機会創出をしたい先生も、きっと修学旅行を楽しみにしていた子どもたちも、淡い期待を追いかけるような時間は、どこかでストレスにも変わっていく危険性があったように思います。

    市塚先生:そういった流れから当時は、もし修学旅行に行かないのであれば、早めに決断をすることが重要だという認識がありました。
     もう1つ、異なる視点ではあるのですが、今年度、学校運営に関する研修に個人的に参加をしました。ここでは各特別支援学校から集まった何人かの先生がグループとなり、ミドルリーダーを育てることを目的に通年の会が開かれるのですが、私のグループは「オンライン」をテーマにすることとしました。
     肢体不自由の子どもに関わっている先生や、知的障害をもつ子どもに関わっている先生方とお話をする中で、学校のみならず、家庭での子どもの生活も含めてオンラインの有用性について検討を重ね、その後、オンラインでの学校行事の検討へと進んでいきました。

    小田:当時は、様々な活動に制限が入る一方で、オンラインだけは推奨されていた風潮がありました。

    市塚先生:検討にあたってはまず、学校での取組に限らず、世界中で、オンラインを活用した活動について調べていきました。そうした中、「オンラインツアー」というものを旅行会社が出し始めていることを知り、活用の可能性を感じたことから、「オンライン修学旅行」へ焦点化していくこととなりました。

    小田:学校では修学旅行の有無の決定が迫られている中、そうした学外での研修によって、オンライン修学旅行の実施が視野に入っていったのですね。

    思いついたことを素直に言える職場だからこそ、オンライン修学旅行は実現。

    小田:一方で、オンラインでの修学旅行となると、日本国内での前例も少なく、校内の先生方にご理解いただくところからして、ハードルが高かったようにも思います。そういった、合意形成については、どのようなプロセスがあったのでしょうか。

    市塚先生:「オンライン授業が定着していない中で、オンラインの行事ってどうすればよいのか」という意見は、やはりありました。
    私個人としても、まずは「あうたび合同会社」さんが提供されているオンラインツアーに、8月に参加してみることとしました。あうたびさんは、全国の生産者さんを支援する意も込めて、田舎と都会をつなぐ、様々な「旅」を提供されています。そのとき私が参加したツアーでは、参加者には実際に現地の特産品が送られてきて、時間になったら指定のZoomにつなぐというものでした。そこでは生産者さんの想いや、地域の良いところをいろいろと紹介してくださったことで、「行ったことがないけれども、行ったような気分になることを実感できたこと」と、実際に特産品を口にしたり、景色を画面越しにでも見れたことで「五感としても楽しめた」ため、思った以上に楽しかったです。
     こうした私自身の経験も校内で共有し、実際に修学旅行に行けないのであれば、修学旅行”体験”でも良いから沖縄と繋ぎましょう、という働きかけをしました。

    小田:あうたびさんは、もともと学校団体向けのプランはご提供が無かったかと思いますが、市塚先生の働きかけによって、とても丁寧にご相談に乗ってくださったとのこと。前例がないからあきらめるのではなく、相談をしてみることの大切さを感じます。

    市塚先生:あうたびさんの快いご協力に加えて、校長先生が「では、一回やってみましょう」と言ってくれたことも、本当にありがたかったです。

    小田:管理職の先生のご理解も得られて、学校全体として前向きな雰囲気で準備ができたことは、本当に素敵です。

    市塚先生:研修等で調べて、実際に検討してみたオンライン修学旅行を空想で終わらせるのではなく、実際にやってみたことで得られたフィードバックを各学校にさせていただく方が貢献度は高まると思いましたし、実現に向けては何よりも、できるかどうかは分からないけれども、思いついたことを素直に言える職場の雰囲気の大切さを感じました。思いついても、「言ってもダメだろうな…」と思うような職場だったらば、今回のオンライン修学旅行は実現しなかったと思います。

    小田:こうして実現に向けて大きく動き出したオンライン修学旅行ですが、実際にどのような内容だったのか、子どもたちの反応はどうだったのか、これからオンライン修学旅行を検討される学校に向けた課題点等について、後編では引き続きお話を伺ってまいります。

    (後編へ続く…)

    話し手

    市塚将人先生 … 茨城県立協和特別支援学校教諭。

    聞き手/ライター

    小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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