2022.02.22 Tue

動画クリエイターと学校。Uターンで島と教育の未来を考える。

新島(東京都)の動画クリエイター青沼宏樹さんへのインタビュー。
  • 若者減少の島へのUターンで、子どもたちの新しい大人像に貢献。
  • 体育発表会の動画作成やキャリア教育の講師。動画クリエイターと学校の連携可能性。
  • 子どもたちとの表現活動としての動画作成の可能性。
  • 子どもたちの笑顔がモルディブへのきっかけ。

    小田:コロナの影響もあり、今、学びのツールとして「動画」が注目を集めています。そこで今回は、様々な教育現場をご経験ののち、動画に主軸を置いた活動をされている青沼宏樹さんにお話を伺ってまいります。
     まずは自己紹介からお願いします。

    青沼さん:青沼宏樹です。東京諸島の新島で18年間過ごし、様々な教育現場を経て、今年度Uターンで新島に戻りました。今は動画クリエイターとして活動しています。詳しく話すと、大学卒業後は2年間中学校で教員として働きました。その後、青年海外協力隊で体育隊員として2年間モルディブに行きました。日本に戻ってからは3年間学童指導員として働きました。

    小田:モルディブにはなぜ行きたいと思ったのですか?

    青沼さん:元々両親がインドネシアのバリ島でサーフィンをするのが好きで、僕自身も幼い頃からよく海外に連れて行ってもらっていました。そこから海外には興味がありました。その後大学生の頃にカンボジアの孤児院にボランティアで行ったのですが、そこで出会った子どもたちの笑顔がとても印象的で。こんなに貧しい生活をしているのになんて素敵な笑顔をするのだろうと衝撃を受けたんです。その経験が忘れられず、青年海外協力隊に参加しました。

    小田:運命的な出会いですね。モルディブではどのような生活をされていたのでしょう。食事などはどうでしたか。

    青沼さん:食事に関しては、モルディブも島国なので魚を食べる文化でしたが、レパートリーが少なかったですね。ただ、面白かったのが、日本と同様に魚から出汁をとる習慣がありました。ガルディアというお茶漬けのような料理があったり、インドの文化も根強いので、カレーもよく食べていました。

    小田:インド文化も入っているということは、紅茶などもよく飲まれていたのですか。

    青沼さん:紅茶やコーヒーもよく飲んでいましたね。サーボーンという日本でいう「3時のおやつ」のような習慣がモルディブでは大事にされていて、そのタイミングで飲んでいました。水についてはバーレーフェンという雨水を濾過したものを飲んでいました。初めのうちはよくお腹を壊していましたが、次第に慣れていきました。食文化については他にも、現地はムスリムなので豚肉を食べなかったり、お酒も飲まないので、最初のうちは苦労した記憶があります。

    動画は人の心を動かし、笑顔にするパワーがある。

    小田:青年海外協力隊としてモルディブでの活動を終えられ、日本に戻られたとのこと。

    青沼さん:元々はモルディブから帰って来たら学校教員に復帰するつもりでいましたが、教育をまた別の角度から見てみたいと思い、民間企業で学童保育を展開しているぺパーソンインターナショナル株式会社に行きました。3年間の活動の後、新島にUターンで戻って来ました。

    小田:新島へのUターンについては、大胆な判断だったようにも思います。

    青沼さん:私は元々地元の島が好きで、いつかは島に貢献して恩返しがしたいと思っていました。しかし、実際の新島は若い世代が少なく、20代も数えるほどしかいないのが現状です。今の島育ちの若い世代の人たちも、島は好きだけど、戻ってこられないと思っている人が多いようです。その大きな要因の1つが、島に戻ってきても仕事がないという理由です。それならば、「自分が新しいモデルになろう」と考えました。私が好きな島で、動画という私が好きなことで仕事をするというスタイルを身をもって示すことで、島の新しい可能性が広がるのではないかと考えました。

    小田:実際に新島での動画クリエイターとしての活動はどのようなことをされているのでしょう。

    青沼さん:現在は動画制作やカメラマンとして、七五三の撮影や成人式の前撮りをしたり、あとは新島のロケーションを活かした動画撮影などが多いです。個人や学校のHP、SNS用の写真撮影やお店のカタログ用の写真なども請け負っています。また島内のフラダンスサークルの動画撮影など、多くの島での撮影に携わっています。ミスコンテスト世界大会日本代表のPR動画撮影など、島外の方が新島に来て撮影をする現場にもかかわらせてもらっています。

     

    小田:動画クリエイターを生業にしている方は日本で増え始めているように思いますが、青沼さんのように、教育現場でのご経験をお持ちの動画クリエイターの方は珍しいのではないでしょうか。
     現在の活動で、特に、教育にかかわる活動について教えてください。

    青沼さん:教育にかかわるところですと、小学校の行事での動画撮影があります。Uターンで新島に戻ってきてから、小学校との関わりをもつ時間が多くなりました。声をかけてくださった校長先生は新しいことにチャレンジしたいと思っている方で、かねてより、ドローンをはじめとした新しいテクノロジーを学校現場に取り入れたいと考えていたそうです。そこで昨年は、体育発表会の様子をドローンで撮影し、動画をつくりました。将来的には、小学生にドローンやVRなどの授業を取り入れたいと話していました。動画制作などは将来的に子どもたちの仕事につながる可能性もありますし、キャリア教育の視点からも子どもたちが新しいテクノロジーに触れることはとても有意義だと考えています。
     その他、キャリア教育の一環として小学3年生の子どもたちの前でお話しする機会をただきました。その際は、動画クリエイターという仕事がどういうものなのか、なぜ島に帰って来たのかなどについてお話しをさせていただきました。
     こどもくらぶでは実際に子どもたちとカメラを使って遊んでみたり、写真や動画を撮らせてもらったりもしています。撮影した写真や動画はこどもくらぶの宣伝にも活用しています。

    小田:実際に「動画」という切り口で子どもたちと接してみて反応はいかがでしたか。

    青沼さん:まず何より、子どもたちが非常に興味を示すんです。体育発表会をドローンで撮影した時も、本当に興味津々な様子でした。さらに作成した体育発表会の動画を鑑賞会という形で子どもたちや保護者の方に見ていただいたのですが、子どもたちがお祭り騒ぎのように湧きあがったんですね。その様子を見て、やっぱり動画は人の心を動かす、人を笑顔にするパワーがあると確信し、可能性を感じました。そして、その可能性をこれからの子どもたちに伝えていくことはとても意味のあることだとも思いました。
     私は動画クリエイターではありますが、根底には教育があります。動画クリエイターという立場でさまざまな人に貢献したいと思っています。

    学校と動画クリエイターとの連携可能性。

    小田:これから先、青沼さんのような地方で活躍する動画クリエイターが学校と協働するとなった時、どのような連携可能性が考えられるのでしょうか。

    青沼さん:まず1つは学校行事などのイベントでの連携です。新島では例年、島内の小学校と中学校、そしてお隣の式根島の小中一貫校の3校で地区音楽会を開催しています。しかし昨年は、コロナの影響で同じ会場での開催はできず、各校で行われることになりました。今回はそれぞれの演奏が見れずに終わってしまいましたが、来年度以降の取り組みとして、各校の演奏を動画で記録し、一つの映像につなぎ合わせたものを視聴しあうこと、これは1つの連携の形ではないかと思います。
     また、子どもたち自身が子どもたちの視点で動画を作成するという活動も考えられます。例えば、図工で作品をつくり、それを保護者や地域の方に広くご覧いただくように、子どもたちが作成した動画の作品展を開催するのも面白いのではないでしょうか。もちろん動画作成や編集は作業として大変な部分もあるので、そこに私のような動画クリエイターが連携してサポートします。子どもたちの中には、言葉や文章での表現が苦手な子もいると思います。音楽や図工といった表現活動に加えて、動画が子どもたちにとって1つの表現活動の場として教育の中に位置づけられないか、というアイデアです。

    小田:子どもたちの活動を記録する”情報としての動画”と、子どもたち自身の”表現としての動画”、そのどちらも大きな可能性を感じます。

    青沼さん:私は、動画は自分の想いを伝えるツールだと捉えています。私自身も自分の想いや考えを動画に込めて、それを子どもたちに伝えたいと思って動画を作成しています。この点、根本は学校の先生方と同じではないでしょうか。学校教育において知識や技能を伸ばすことはもちろん大事ですが、先生自身が経験として獲得してきた想いや考えを子どもたちに伝えることも大切な教育活動だと思います。動画を作成するという活動を授業として取り扱う場合、例え子どもたちが作成した動画に技術的な失敗があったとしても、何を伝えたくて作られた動画なのか、そこに子どもたちの想いがあれば、教育として十分に意義があるのではないかと思っています。

    全国の先生方へのメッセージ

    小田:最後に、全国の先生方へ一言メッセージをお願いします。

    青沼さん:私は未来の子どもたちのために、カメラや動画というツールを用いて、自分にしかできない教育のアプローチを模索し、活動しています。学校の先生方と立場や方法は異なるとしても、自分の想いを伝えるという使命は一緒だと思っていますし、それこそが教育だとも思っています。それから子どもたちが笑顔でいられる未来のためには、まず私たち大人が笑顔で仕事を楽しむことが必要だと思います。なので私自身、今の仕事は誇りをもって楽しく活動しています。是非先生方も自分の想いを大事に、笑顔で頑張っていただけたらいいなと思います。

    小田:青沼さん、今日はありがとうございました。

    話し手

    青沼宏樹さん … 中学校体育科教師、青年海外協力隊(モルディブ、体育隊員)、ペパーソンインターナショナル株式会社学童指導員を経て、現在は新島で動画クリエイター。
    HP:https://numafilms.tokyo

    聞き手

    小田直弥 … POWER FOR TEACHERS編集長。東京学芸大こども未来研究所学術フェロー。国立大学法人弘前大学助教。

    ライター

    福島達朗 … NPO法人みんなのことば事務局長、部活動指導員(渋谷区, 吹奏楽)、フリーランスのステージマネージャー

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