2021.09.24 Fri

夏休みは、学校マネジメントのヒントを求めて企業インターンへ。「動き(変容)」が学校の「硬直化」を緩める。

ダンサーとして活躍したのち、現役公立中学校(東京)教員となった岡本和隆先生へのインタビュー。今夏のインターンの経験から学校マネジメントへのヒントを探ります。
  • 教員は踊れなくても、適切な課題設定をすることで、生徒がダンスの特性や魅力に触れられるような授業はできる。
  • MISSION・VISION・VALUEの共有と、良い会議の実現を。
  • 学校と学校外を行き来することで、学校の「硬直化」を緩める。
  • ダンスと先生と。

    小田:今年も残すところ数カ月となりました。新型感染症の猛威とともに9月が始まり、延期にしていた行事がさらに延期になりましたという声も耳にしています。こういう時だからこそ教員同士の連携や会議の効率化など、学校マネジメントにおいて新しいアイデアが求められていると感じています。
     今日は、東京学芸大こども未来研究所学術フェローであり、現役公立中学校の先生でもある岡本和隆先生にお話を伺ってまいります。

    岡本先生:ご紹介をありがとうございます。私は現在東京都の板橋区立板橋第三中学校の保健体育の教員をしております。今年度で教員15年目を迎えました。

     教員になる前はダンサーとして活動をしていたため、その経験を活かして、今では全国の先生方とダンスを通じてつながる取り組みを行っています。ダンスを授業のなかでいかに充実させていくかという実践研究に加えて、実践をより多くの先生と共有していくなど、ダンス教育が広がるよう努めています。具体的には、「DANCE X “cross”」(ダンスクロス)という団体を主宰しており、関東圏を中心として、幼稚園から大学の先生まで200名近くの先生方が参加くださっています。ここでは、子どもたちへのダンスの指導法を共有するというよりは、まずは先生方と一緒にダンスを楽しむこと、そうした先生の姿を通して、その先にいる子どもたちにもきっと伝わる、と信念をもって活動しています。

    小田:「DANCE X “cross”」のみならず、「ビートイットラジオ体操」という取り組みにも私は注目をしております。

    岡本先生:ビートイットラジオ体操が生まれたきっかけは、私のダンスと教育の様々な経験に加えて、ダンスの必修化という教育界の変化、またそれに順応しようと努力されていた全国の先生方の姿、そのすべてが影響し合っています。
     体育の先生は、あらゆる競技を指導する必要がある一方で得意不得意はもちろんありますし、ベテランの先生になってくると、子どもたちに模範を示すことがだんだんと難しくなってくることもあります。そうした中でダンスが必修化されたとき、メディアの煽りもあったとは思いますが、全国の先生方がダンススクールに通い始めるという姿を見て、違和感を覚えました。

    小田:「ダンスの必修化=ダンスを踊れなければいけない」という発想に疑問をもたれたわけですね。

    岡本先生:教員が踊らなくても、適切な課題設定をすることで、生徒がダンスの特性や魅力に触れられるような授業ができないか、と思い模索をしていたところ、「Beat It」(マイケル・ジャクソン)の音の構成と動きの構成がガチッと合うところがあったことから「ビートイットラジオ体操」は生まれました。私の実践では主に授業の導入で使っていました。これだと、先生方はラジオ体操なので模範ができますし、繰り返すうちに踊れるようになるのではないか、という課題解決への期待もありました。

    小田:そうして開発されたビートイットラジオ体操は、2020年4月11日から、ほとんど毎日オンライン配信されていると思います。朝早い時間から、全国の先生方とオンラインでつながり、ラジオ体操をするという内容と思いますが、全国の先生方が身体を動かしながら会話できるという、楽しくも貴重な時間です。
     ちなみに、どんな先生でも参加が可能なのでしょうか。

    岡本先生:可能です。さらに言うと学校の先生以外も参加されてて、参加者どうしのつながりもできています。現在は、勤務校での忙しさもあって毎日とはいきませんが、なるべくペースを落とさずに、FacebookとInstagramというSNSを通じて全国の先生方と一緒に楽しんでいます。朝6時過ぎに実施をしているので、ご都合許しましたらばぜひご参加ください。FacebookやInstagramをされている方は、私の名前(Kazutaka Okamoto)を検索いただければ、生配信の様子をご覧になれます。

    インターンで見た、マネージャーという仕事。

    小田:さて、岡本先生はこの夏休み、制度を活用…ということではなく、プライベートとして企業へのインターンに参加されたと伺いました。

    岡本先生:先生になった当初から、「多様な人材が協働できる学校の構築」というヴィジョンをもっていました。ただ、近年では特に社会の変化に対応できる教員像が求められ、さまざまな学校への期待と課題が同時に降り注ぎ、結果的に学校や学校を支える先生方が「硬直化」しているように感じています。そうした今だからこそ、初めての方と出会い、知らない世界を知り、自分が「変容」していくという、大人が学び、変わっていく姿を子どもと共有することを絶えず繰り返していくことが学校の「硬直化」を緩めるヒントになると感じています。今回のインターンへの参加もその一環です。

    小田:岡本先生が「認定特定非営利活動法人Teach For Japan」の方と行われた勉強会で「先生がインターンに行く」という記事をご紹介いただいたことで、インターンへの準備が進んでいったとのこと。

    岡本先生:私自身の「変容」を求めて、また教員としての年数が経つにつれ、次第に授業だけでなく、組織のマネジメント能力も求められ始めていたことから、実践の中でマネジメントを学びたいと考え、インターンへの参加を行いました。

    小田:インターンは「株式会社ARROWS」様が受け入れてくださったとのこと。具体的な日程や内容を、お話しできる範囲で教えていただけますでしょうか。

    岡本先生:8月10日(火)~13日(金)の4日間を受け入れていただきました。ARROWSさんは本当に綿密な計画を組んでくださり、感謝しかありません。
     初日はARROWSさんの会議の考え方を教えていただいたり、社員とのMISSION・VISION・VALUEの共有の仕方について、実際にその様子を見せていただきました。

    小田:MISSION・VISION・VALUEは、経営学者であるピーター・F・ドラッカー(1909-2005)によって提唱された経営方針の考え方です。MISSIONは企業が果たすべき使命、VISIONはこの先どんな企業になりたいのか、VALUEは組織で共有すべき価値観や指針と言われており、この考え方に即して大手企業のほとんどが経営方針を整理しています。

    岡本先生:ARROWSさんの一週間は、MISSION・VISION・VALUEをふまえた会議から始まり、その社内共有を丁寧に行っていました。社長とマネージャーでのミーティングを行い、その後にマネージャーが社員一人一人とのミーティング(1 on 1)を行うという流れです。私たち教員の職員会議は、先生方数十名での会議が主ですが、ARROWSさんはそういった大人数での会議はあまりされていないとのことでした。

    小田:達成したい目的に対して、適切な会議の在り方が設定できているか、というのは経営の上でとても大切な考え方と思いますし、様々な企業さんがそこにアプローチしていることもよく耳にします。

    岡本先生:良い会議の考え方として、良い資料とその内容を共有する時間、この2つの結びつきの大切さをARROWSさんの会議から学ばせていただきました。マネージャーが社員一人一人の業務負荷度の把握もしっかりとされていたことから、社員が今必要な業務に注力できる環境づくりに配慮が見られた点も、とても勉強になりました。マネージャーという仕事を目の当たりにして、教員としては非力さを感じる、ショッキングなインターン初日となりました。
     2日目以降は、営業の現場に入らせていただきました。そこでは、共同で新教材を開発されるというミーティングだったこともあり、初日に感じた非力さとは一転して、むしろ教員としての力を発揮できたと感じました。「この進め方だと子どもたちが飽きちゃうかもしれないので、こういう風にもっていったらどうでしょう」。こういう私たち教員からしたら当たり前な発想も企業の役に立てるんだ、と思えたことは発見でした。

    硬直化を解くカギとしての「動き(変容)」。

    小田:4日間のインターンでは学校を相対化するたくさんの機会があったのではないかと思います。インターン後に学校に戻られたとき、何を感じられたのでしょうか。

    岡本先生:私たち教員は、社会から提示される新しい教育課題や、日々の学校運営のなかで、毎日たくさんの課題解決を行っています。一方で、企業では、たくさんの課題解決が価値ある仕事を発生させるという考え方の他に、1つの解でいくつもの問題が同時に解決できるような価値のある仕事もあると思います。学校ではそうした発想が少なかったな、と思ったのが、学校現場に戻って最初に感じたことでした。
     また、1つの行動を学校の方針(ヴィジョン)から考えたときにどうなのか、という発想が少なかったとも思いました。学校だと、どうしてもそれぞれの先生方の経験則に頼って進めていることが多いような印象で、その場合、先生方お一人お一人のヴィジョンのずれが問題につながったり、仕事の進行に影響を及ぼす可能性もあると感じました。

    小田:学校の先生方は、「異動」が前提の職業であるとも思います。地域や学校ごとに個性があると思いますが、そう思うと異動のたびにヴィジョンを持ち直すと申しますか、チューニングが必要になるようにも思います。

    岡本先生:企業の場合、VISION・MISSION・VALUEは固定的なものでなく、むしろ変化するものであるという前提の上で、しかるべきタイミングで柔軟に対応されていると思います。ARROWSさんも例外ではなく、事業計画の見直しをする際に、社員と共に新しいVALUEを再構築されていると伺いました。学校も、「学校」という名前は変わらずとも、中身は常に質的な変化をしていて、それに応じてどういうVALUEをもって働くか、ということは大切な発想なのではないかと思いました。

    小田:急速な変化を見せる教育業界においては、変化を前提としたマインドセットも欠かせないものと思います。こうした考え方を学びたいと思ったとき、どうしても東京が便利に思ってしまうのですが、全国の先生方が今回の岡本先生のように学べる機会はどのように見つけることができるのでしょうか。

    岡本先生:マネジメントや経営を学ぶということであれば、どの地域にも、しっかりした理念をもった企業さんがあると思いますので、地元企業さんのお知恵をお借りできるとよいと思いました。
     学校の校内研修や、教育委員会が実施する研修ももちろん価値のあるものですが、学校の先生の顔をしながら全く違う世界の回り方を見ることで、学校を相対化する機会になると思いますし、学校の先生の強みや知らなかったことを素直に受け入れる「変容」を通して、教員という職業そのものも相対化できる機会になると思います。
     今回、インターンに参加して学校に戻ったとき、他の先生もインターンの内容に興味をもってくれましたし、会議の在り方など、校長先生も耳を傾けてくださり、経験したことを還元してほしいと仰ってくださいました。私が先生の顔をして外に出ていってまた戻ってくることが、学校の「硬直化」を緩める一助になっていると感じています。

    小田:「動き(変容)」がなくなると「硬直化」する、「動き(変容)」を通して「硬直化」を緩める、というのは、ダンサーである岡本先生らしい核心に聞こえました。

    全国の先生方へのメッセージ

    小田:最後に、全国の先生方へ一言メッセージをお願いします。

    岡本先生:私たち教員は、いま大変な時代を迎えていると思います。それはコロナだけでなく、Society 5.0など、社会の変化が激しくなり、教育への期待も大きくなってきていると感じています。この難局に対して、先生同士でつながり、知恵やノウハウを共有し、個々の強みを最大限に発揮できるようになれば、光がみえてくると考えております。

    小田:岡本先生、今日はありがとうございました。

    話し手

    岡本先生 … 板橋区立板橋第三中学校(東京)。ダンサー。東京学芸大こども未来研究所学術フェロー。
    Instagram:https://bit.ly/2YOLZgC
    Facebook: https://bit.ly/3nyLQZh

    聞き手

    小田直弥 … POWER FOR TEACHERS編集長。東京学芸大こども未来研究所学術フェロー。国立大学法人弘前大学助教。

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