2021.08.27 Fri

子どもの世界に飛び込むことでひらめくICTの実践。課題を理解したうえでの活用を。

調布市立第三中学校(東京)の小山貴裕先生へ、「音楽科×ICT」をテーマとしたインタビュー。
  • リコーダーの授業はギターの弾き語りへ変え、一人1本の環境整備を実施。
  • 学校の学びに生徒たちを引っ張ってくるという発想よりは、子どもたちの世界に私が飛び込んでいくことで新しい実践が生まれる。
  • 端末は生徒卒業時に返納されることを想定し、紙でも学びの軌跡を残す。
  • ※本記事の記載内容はインタビュー時点のものです。

    依然としてコロナ禍での音楽の授業運営は難しい。

    小田:2021年も8月が終わろうとしています。新型コロナウィルス感染症の猛威は、連日、メディアを通して報じられており、三重県の県立学校での夏休み明けの分散登校や、岐阜県の小中学校の夏休み明けの授業を分散登校とオンラインで実施する方針はその一例ですが、全国の学校では様々な対応がなされています。子どもたち、そして教職員の安全・安心な環境づくり、また今日的な学びの姿については、引き続き、慎重な議論の積み上げを要するところです。そうした今、全国の先生方の意見、実践の共有も重要な意味をもつことになると思われます。
     今日は、ICTの活用に焦点をあて、調布市立第三中学校(東京)の小山貴裕先生にお話を伺いたく思います。まずは自己紹介をお願いいたします。

    小山先生:教科は音楽で、現在は2年生の担任もしています。勤務校は1年生7クラス、2年生6クラス、3年生5クラスで、講師の先生と分担して音楽の授業を行っています。夏休みが明けたら、分掌として生徒会も担当予定です。

    小田:音楽をご担当されているとのこと。授業ではご苦労も多いと思います。

    小山先生:音楽の授業運営については、市からの要請や社会情勢を鑑み、管理職と十分に相談したうえで決定するようにしています。その結果、例えば合唱練習の場合は、生徒は1つの円になり、全員外向きになって歌唱をするようにしていたり、パート練習においても、向き合って発声したりすることはさせていません。隊形や人数に応じて、活動時間と活動場所を考えるようにしています。

    小田:リコーダーのような吹奏楽器については、とりわけ制限がかかっているようにも思います。どのように対応されたのでしょうか。

    小山先生:器楽については、リコーダーは避けることが望ましかったことから、市からのコロナ予算でギターを購入し、生徒が1人1本ギターを使用できる環境に整えました。私自身、ギターはほとんど演奏できなかったのですが、教材研究を進め、今では生徒に弾き語りをさせています。

    小田:東京においては、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置(まん防)が日常化しつつあると思い、保護者に子どもたちが学ぶ姿をご覧いただくことも難しくなってきていると思います。

    小山先生:不特定多数の方にお越しいただける行事は、開催が難しくなっているのは事実として言えると思います。一方で、昨年は開催できなかった行事をなんとか今年は実施できないかと検討し、合唱コンクールは昨年中止でしたが、今年は開催の方向を検討しています。

    小田:合唱コンクールを開催するかどうかは、まさに全国の中学校で検討に挙がっていることと思います。

    小山先生:あくまでも”現時点では”ということしかお伝え出来ませんが、例年よりも規模を縮小することで実現できないかと検討しているところです。具体的には、例年は全日開催だったところを、各クラス、課題曲と自由曲の2曲を演奏するのではなく、各クラス1曲の演奏とすることで、時間を縮小しました。また、保護者の参観の中止、市のホールを借りて十分な広さを確保することで、生徒が間隔を空けて座席に座ったり、席の入れ替えをして同じ箇所に生徒が留まらないようにもしました。その他、合唱コンクールの評価も新たにし、今年度は順位をつけないこととしました。1か月先の状況が分からない日々のため、不安は隠せませんが、いま必要な判断を積み重ねていきたいと思います。

    様々なICT実践のアイデアを支える教育観。

    小田:小山先生は、ICTを用いた授業実践にとても積極的な印象をもっています。早速ですが、いくつか具体例も含めて教えていただけると嬉しいです。

    小山先生:例えば、歌唱の場合は、歌のテストをするときに「これくらいの演奏だとBだよ、これくらいの演奏だとAだよ」という具体的な例を生徒に示すことができるよう、私が実際に歌唱をした動画を作成しています。その他、歌唱するときの喉の動きを撮影した動画なども作成しており、それらはGoogle Classroomにアップロードし、生徒に見ておくように伝えます。
     合唱のパート練習については、これまではCDを使用していたのですが、Chromebookにも音源を入れることができますので、パート練習の時には生徒自身のChromebookにコードとアンプをつなげることで、音取りを行うことができます。

    小田:教員側の事前準備によって、生徒は動画に自由にアクセスをすることができるようになり、また使い慣れた機材で、いつでもパート練習ができるということですね。

    小山先生:2学期からは、さらに新しいことへの挑戦を検討しています。
     Chromebookを活用すれば、パート練習時に音源を流すだけでなく、撮影も可能になります。これまで、パート練習というと、自分たちのパートについて考えることが多かった一方で、他のパートがどのような方略をもって音楽的工夫を行っているかはなかなか共有する機会をもてませんでした。そこで、各パート練習を、生徒同士の顔が写り込まないようにするなど工夫して生徒自身に撮影してもらい、それをGoogle Classroomにアップロードし、クラス全体で共有をしたうえで、それぞれの動画にコメントをする形で自分とは異なるパートの練習風景や考え方に触れることができるようにしたいと検討しています。

    小田:生徒はいつでもその動画を閲覧できる、ということを思うと、授業の場以外でも学びが継続する可能性があることは魅力に感じますし、合唱コンクールが背景にあることを思うと、なぜそういう取り組みをするのかという必然性も子どもたちの中で生まれやすい環境設定があるようにも思います。

    小山先生:その他の取り組みとしては、夏休みの宿題として合唱コンクールの音取りをしてくるように生徒に伝えていますが、私自身も各クラスの曲の音取りをして、ファルセット(裏声)も使用しながらパートごとに音源を作成し、それを1つの動画に編集してまとめることで、一人で1曲(全パート)を演奏しているような動画を作成しました。それを各クラスのGoogle Classroomにアップロードし、「先生も頑張って音取りをしているよ、みんなはうまく進んでいる?」と声をかけています。

    小田:少し論点が広がってしまうと思うのですが、1点、ぜひお伺いしてみたいことがあります。
     小山先生は、子どもたちのいま生きているリアルな文脈を駆使した授業づくりを意識されていると思います。それは、先ほどのご紹介にはありませんでしたが、例えば、TikTokのような子どもたちの間で流行っているSNS媒体の特徴を整理し、それを生かした「指揮の仕方」、「音楽の要素とは?」という動画も作られていることからも感じます。僕からするとそのモチベーションの所在が気になるところです。

    小山先生:難しい質問ですが、まず思ったのが、子どもたちの身の周りに自然にあるものを使う方が、動画を見てくれる可能性が高まると思いますし、記憶にも残る、つまりは学びの定着が期待できるかなと思いました。
     私の考えとしては、学校の学びに生徒たちを引っ張ってくるという発想よりは、子どもたちの世界に私が飛び込んでいく、という方が自然に感じています。「こういう環境にいるんだね、じゃあこれを一緒に学ぶために、こういう方法なら分かりやすいかな?」というスタンスを心掛けています。

    小田:小山先生のご関心は、構成主義やメタ認知、真正評価、パフォーマンス評価などにあるとのこと。子どもたちが自ら学びを深め、広げるストラテジーを豊かにもてるようになってほしい、問いに向かう手立ては子どもたちの自然な文脈と共存して必然性を伴っている方が望ましい、そうした教育観を強く基盤としてお持ちでいらっしゃるからこそ、ご紹介いただいたようなICTの活用アイデアが湧き出ているようにも感じます。

    小山先生:その話に関連すると、例えば、創作の授業では「SONG MAKER」(Google社)を使って、次のような文脈のもとで生徒に課題を取り組ませました。
     「あなたはゲーム音楽のクリエイターです。ある日、とあるゲーム会社から仕事の依頼がありました。曲は部分的にはできているのですが、「A-B-A」という形式の作品の、Bの部分がつくれなかったので、なんとか力を貸してほしい。納期は〇月△日です。よろしくお願いします。」
     評価をするときは、どういう目的に向かって音楽の要素を構成したかという説明文も一緒に提出させるので、作品の音楽的な質というよりは、説明文から、今回の創作のねらいへの到達度を読み取ることとしました。

    小田:キャリア教育の視点も含まれますし、自分の考えを言語化する力も必要な課題ですね。

    2つの質問に対する小山先生のオピニオン。

    小田:さてここからは、これまでにPOWER FOR TEACHERSにお寄せいただいたことのある全国の先生方の疑問やお悩みから2つピックアップして、小山先生に聞いてみたいと思います。
     まず、1つ目ですが、ICTを活用する以前の従来の授業をイメージすると、なかなか授業内容についていくことができなかったり、教科そのものに関心がない子もいると思います。そうした子について、ICTを活用することで教科や授業への向き合い方が前向きに変わっていくことはあるのでしょうか?という疑問です。特に音楽科について、小山先生の実感はいかがでしょうか。

    小山先生:私の経験からだと、これは「前向きに変わっていくことがある」と言ってよいと感じています。子どもたちは動画を見ることは好きなので、私が新しい動画を作ったというと、Google Classroomを開いてほとんどの子が見てくれますし、「SONG MAKER」を用いた創作の授業についても、取り組まなかった生徒はほぼいなかったです。子どもたちの生活に根付いているものを使った学びの方法は浸透しやすいのではないか、と考えています。
     一方で、ICT機器を用いた学びにはまだ目新しさもあることから、そういった理由故に今は食いつきが良いとも考えられるかもしれません…。

    小田:2つ目です。GIGAスクール構想がスタートしたばかりですが、その課題点について、生徒側と教員側に分けて整理しておくことで、可能な対策を検討しながら日々の授業運営ができれば良いと考えていらっしゃる先生もいらっしゃるようです。この点、いかがでしょうか。

    小山先生:これについては、すでに多方面での様々な指摘があると思いますが、私個人の意見を述べたいと思います。
     まず生徒側についてですが、一人1台端末時代となりましたが、あくまでも貸与品のため、生徒からすると、卒業時に返納しなければなりません。そのため、集中して端末を活用しすぎると中学校3年間での学びのデータが端末内で膨れあがり、一方でそれらは持ち越せないことから、卒業後もいつでも学びの軌跡を振り返れるものではなくなってしまうことを課題と感じています。この点を理解したうえで、紙媒体とのバランスを意識した授業づくりが必要に思います。
     加えて、生徒側からすると、新しい課題が出ているかどうかは、端末を開かなければ分かりません。そのため、新しい課題を出すときには教員から「新しい課題を出すからChromebookを見てね」と声をかけるようにしなければ、慣れていない子は課題を見落とすなど、負担がかかってしまうと思います。

    小田:教員側の課題点はいかがでしょうか。

    小山先生:真っ先に思い浮かぶこととして、例えば動画で課題を提出させたときには、すべての動画を確認しなければ評価ができないことから、膨大な時間と労力がかかります。学校での通常の授業を終え、部活を終え、担任なのでクラスの日記を見て、そこから動画を見ようとなると、体力的に厳しいものがあるのは否めません。
     別の視点ですが、ICTに頼れば頼るほど、反転授業の要素も加わって、授業時の効率は上がります。一方で、効率がよくなるということは、授業が進むということを意味するので、これまでよりも授業が進んだ分の課題を評価する労力がのしかかってくることになります。
     もう1点だけ。私の学校は、ということかもしれませんが、子どもたちが使用している端末と同じものを教員も一人1台持てているわけではないので、授業づくりをしてみたものの、実際子どもたちの端末では思ったように使えなかったということもあります。教員用と生徒用ではアクセス制限も異なりますので、その点でも注意が必要です。
     わずかではありますが、いま列示した課題については、今後時間をかけて1つ1つ検討されていく必要があると感じています。

    全国の先生方へのメッセージ

    小田:最後に、全国の先生方へ一言メッセージをお願いします。

    小山先生:私はこれまでに「やってみたいけど無理だな」と思っていたことが、ICTの活用によって「できるかもしれない」と可能性を感じることのできた一人ですが、一方で、まだまだICTに未知さを感じていらっしゃる先生もいると思います。ICTを使用することが目的にならず、何のためにICTを使うのか、ICTを使うとさらに伝えたいことが伝わるかもしれない、というヴィジョンを見失わないようにしたいと、私は思っています。
     もしICTを使ってみたいけれども、いつ・どうやって、というところを悩まれている先生は、なにか心惹かれる実践をみかけたら、真似してみるところから始めるのも良いと思いますし、この単元だけはICTを取り入れてみよう、まとめのときにICTを使ってみようなど、部分的に考えてみるのも良いかもしれません。大切なのは、「いままでの授業とICTを使った授業のバランス」で、全ての授業でICTを活用することではないと思います。労力はかかりますが、新しい学びに目の色を変える生徒の姿を見ると、「頑張ってよかったな」と私は思います。

    小田:小山先生、今日はありがとうございました。

    話し手

    小山先生 … 調布市立第三中学校教諭。音楽科。2年生担任。

    聞き手

    小田直弥 … POWER FOR TEACHERS編集長。東京学芸大こども未来研究所学術フェロー。国立大学法人弘前大学助教。

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