2021.02.05 Fri

徹底的に遊ばせる。デジタル・ネイティブを前提に、子どもの学びをデザインする。(後編)

つつがる市立育成小学校(青森県)にてお勤めの前多昌顕先生へのインタビュー。
  • 「GIGA成功への30チャレンジ」(辻史朗先生作成)で思考を整理し、深い理解を。
  • 端末の使い方は、説明するより遊ばせる。子どもたちが飽きてからが本当の勝負。
  • どんな情報発信でも、きっと響く人はいる。動きながら考え、情報発信をしましょう。
  • 1つの提案が学校や保護者の協力を得て、オンライン授業の実現へ。

    小田:今回は、前回に引き続き前多昌顕先生にお話しを伺ってまいります。先生の自己紹介につきましては前回記事に譲ることとし、今日は、昨年の全国一斉休校に対して、先生の学校ではどのように対応されたのかについて、ここからお話をお伺いさせてください。

    前多先生:昨年3月、全国一斉の臨時休校が発表されたとき、東京を中心にオンライン授業の実践が始まりましたが、同時期に私もオンライン授業を開始しました。最初は「Flipgrid」を用いて、非同期で行っていました。そうこうしているうちに、この状態が長引く予感があったので、自腹でも良いから学校独自で「~ed.jp」のドメインを取得したいことを校長に伝えたところ、学校の費用でドメインを取得することとなりました。その後、Microsoft社のTeamsを契約し、春休み中にすべての設定を終えました。

    小田:一部地域では、新年度が始まり、緊急事態宣言による再休校までの間、学校への登校が可能だった時期があると聞いています。その後、整備されたICT環境はどのように活かされていったのでしょうか。

    前多先生:青森県も、当時はまだコロナによる影響が大きくはなかったことから、4月7日から私の勤務校も登校が始まりました。私のクラスについては先を見据えて、登校できているうちにオンライン授業の練習をしておきたいと思い、まずは一人一端末環境をつくれるよう、とにかく端末を集めました。そこからTeamsを設定し、保護者にもご説明をし、任意でご自宅の回線を使わせていただけるようお願いをしました。
     そうして、子どもたちとは対面の授業なんだけれども、オンライン授業というスタイルを開始できました。2週間程度経った時に予想通りの再休校となり、そのときは「では明日からオンライン授業にします」という形でスムーズな移行ができました。

    小田:全国では、プリントによる宿題の在り方が検討されていたときですね。

    前多先生:私のクラスでは、国語、算数、社会のみをオンライン授業にし、午前中2コマ、午後2コマで実施しました。

    小田:陸奥新報、Web東奥等で、前多先生の取組が話題に挙がっていたのを拝見しました。とても先進的な取り組みだったと振り返っています。

    前多先生:当時は、普通の授業が、オンラインで普通にできていることに驚かれている印象でした。
     一方で、東京等の都市部とは違って青森では、GW明けから学校が再開され、それに伴い、急激にオンライン授業への関心が薄まりました。次には、休校期間分の遅れをいかに取り戻すかということがホットな話題になりました。
     現在、全国的にコロナによる影響が色濃い状況ではありますが、正直申し上げて、私の身の周りではオンライン授業をしようという雰囲気は感じられない状況です。

    小田:コロナの影響は非常に多面的で、その中で浮上した新たな可能性について、前向きに向き合えるだけの余裕がないのも正直なところかもしれません。しかし、前多先生のように、先を見通し、先手を打った対応があったからこそ、休校期間中に子どもたちに授業を届けることができたのだと感じておりますし、ひいては、その体験は子どもたちの中で、GIGAスクールへと滑らかに接続していく予測があります。いずれにしても、いま、子どもたちのために教員がICTと向き合うことからは逃れられない印象です。

    自分のための挑戦。GIGA成功への30チャレンジ。

    小田:さて、前多先生は、Facebookにて辻史朗先生が公開されていた「GIGA成功への30チャレンジ」に着目をされ、30のチャレンジ全てについて、一つ一つ解説動画を作成されています。この取り組みについて、お聞かせいただけますでしょうか。

    前多先生:国内のこうした動きについては、まずApple社が「キッズのためのクリエイティブなアクティビティ30」を出したことが最初と思いますが、ここでは、提示されている30のチャレンジについて、興味のあるものをクリックすると詳細説明へ飛ぶようになっていました。
     これを最初に見つけた時、このGoogle版やMicrosoft版があると良いと思い、自分で作ろうと思っていたところ、辻先生がGoogle版を既に作成くださっていたので、それを基にさせていただき、私は1つ1つのチャレンジについて解説動画を作ることとしました。

    小田:ものすごく労力がかかるお取組みのように思いますが…

    前多先生:これは私自身のために作りたいと思いました。辻先生のご提案くださったものを1つ1つ試しながら動画を作ることで、本当に自分が理解できているか、頭の中の整理になりますし、実際に授業をするときにもやりやすくなります。加えて、誰かに質問されたときにも「これを見てみてください」とURLをお渡しするだけで済みます。

    小田:分かっているつもりだったものが、実際に取り組んでみると意外と手ごわいということ、僕もたくさん経験があります。そう考えると、辻先生から「これ、ちゃんと理解できてますか?」という問いかけ集の意味での「30チャレンジ」とも言えるかもしれません。

    前多先生:そのため、完成した動画はFacebook等でも案内していますが、これはあくまで私個人のチャレンジでしかありません。参考いただけることはもちろん嬉しいことですが、もし本当にGIGAスクールの準備をするという意味では、辻先生の作成された30チャレンジについて、みなさんもご自身で取り組まれてみることをオススメしたいと思います。

    小田:動画を撮影するということは、分かりやすい内容にするために、頭の中を整理し、どうすればもっとスマートに伝わるかと吟味することと思います。苦手な方にとっては、もちろん努力を要しますが、自主練としては質の高いものがあるのかもしれません。

    前多先生:「私はこんな風にチャレンジしてみました!」というのが、様々なところで乱立することも良いと思うのです。
     辻先生の30チャレンジの最も素晴らしいところは、ゴールだけが示されていることです。例えば、「『課題(資料)』から【学年日課の予定】を投稿」などを考えてみても、どういう風に分かりやすく伝えるか、という意味では多様な解が想定されます。多様なゴールが、全国各地から示されれば、ひいてはそれがGIGAスクールが前向きに動き始めるエネルギーにもなると直感しています。

    小田:だれかが作成した30チャレンジの動画を見ながら、「もっとこういうやり方もあるよ!」と思えるならば、それは批判ではなく、教員同士の協働的な学びへとつながっていくように思います。すでにこういったジャンルが得意な先生も、そうでない先生も、平等に交わり合いながら、それぞれの一歩先へ進めるギミックが必要なのかもしれません。

    飽きてからが勝負。デジタル・ネイティブを前提に考える。

    小田:間もなくやってくる新年度に向けて、全国各地では、GIGAスクールを想定した準備が多面的に進んでいることと思います。特にすべての先生が直面すると思われるのは、新しい端末が子どもたちの学びを深めたり、広げたりする教育ツールになるために、どういった段階的な指導をするのかという課題だと思われます。この点、様々な解がもちろんあるわけですが、前多先生はいかがお考えでしょうか。

    前多先生:私の考えとしては、例え時間がかかったとしても、初めの段階としては「お腹いっぱい遊ばせる」ということを大切にしたいです。
     子どもたちの目の前に端末が初めてやってきたとき、それは子どもたちにとって「特別なツール」です。そうしたうちは、子どもたちの意識がツールの使い方に終始してしまい、深い学びの時間にはなりづらいように思います。

    小田:初めて自分用の端末が与えられた子どもたちは、おそらくそのほとんどが、心のどこかでわくわくしていると思います。そうした子どもたちの探究心に教員は期待して、見かけ上は遊ばせながらも、実は「端末と私」の関係を特別なものでなくしていくことをねらった時間を過ごさせる、ということですね。

    前多先生:そうして「特別なツール」という感覚が薄れ始め、「飽きてからが勝負」だと思います。
     私の学級では、休み時間も端末を触ることができるようにしており、子どもたちは「教育版マインクラフト」が好きで取り組んでいたのですが、やはり子どもなので飽きがやってきます。そうしたときに、私ならば「じゃあ、マインクラフトを使って面積の勉強してみる?」等と問いかけます。この時にはもう、子どもたちにとって端末は「特別なツール」ではなくなっているので、端末の使い方は身体になじんだ状態で学びに没入していきます。この流れを確立していくためにも、私個人としては、初めに徹底的に遊ばせる時間がとても大切な時間的投資なのではないかと思います。

    小田:僕のような形式的な人間からすると、順番を追って、1つ1つ使い方を説明したくもなりますが…

    前多先生:やはり、楽しく、わくわくしながら自然に使い方を覚えていくということを重視したいと思いますし、例えば、「Google Jamboard」を使ってみんなでお絵描きをするだけでも、たくさんのことを自然に学ぶことができます。

    小田:「楽しんでいたら、いつのまにかできるようになっちゃった!」ということですね。

    前多先生:私が生まれたときに撮ってもらった写真はカラー写真でしたが、もっと上の世代の先生だと白黒かもしれません。今の子どもたちは、おそらく、自分に向けられた最初のカメラはスマホだと思います。これを考えるだけでも今の子どもたちと私たちとの違いは歴然で、俗にデジタル・ネイティブと呼ばれるほどに、今の子どもたちは生まれたときからたくさんの機器の中で育っています。
     基本的な操作さえきちんと子どもたちに伝え、あとは目指すべきゴールを示せば、子どもたちは試行錯誤のなかで自分なりの解を見つけようとします。また、自分の力では難しい場合、仲間との教えあいで解決しようとする協働的な学びの機会も創出されます。こうして、学びが連続し始めるように思うのです。
     「ダメだったら再起動」ということも教えておくことで、あとはたいていのことを子どもたちが自分たちで解決できます。

    小田:子どもたちの方が、先生よりもコアな使い方をすることもあるかもしれません。

    前多先生:そうしたことに恐怖を感じる先生もいらっしゃるかもしれません。ただ、そこはあきらめるしかないように思います。今の子どもたちと私たちは、生まれたときからの環境があまりに違います。子どもたちにとっては、むしろ機器を使いこなす方が自然だとも思います。子どもたちの方が上手な使い方をしている場合は、思い切って子どもに教えてもらいましょう。

    全国の先生方へのメッセージ

    小田:最後に、全国の先生方へ一言メッセージをお願いします。

    前多先生:「動きながら考える」ということが大切だと思います。「できるようになってから…」、「ちゃんと理解してから…」と思っていると、時間ばかりが経ってしまうかもしれません。最初は気持ちが重くて大変かもしれないのですが、オンライン化は進めてみると、意外と楽になるものです。一歩踏み出した先は、進みながら情報を得て、考えてみてほしいです。
     また、繰り返しになりますが、情報発信をすることの大切さを強調しておきたいと思います。やはり情報は、発信する人のもとへ集まってきます。「私が情報を発信したところで誰の役にも立たないのでは…」と思う方もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。同じレベルの方々には、その情報は響きます。「私はこんな風にやってみました」という情報がありがたいと思う人は絶対いるものです。「やってみた」でも良いですし、YoutubeでもTikTokでも良いと思います。「情報発信を始めてみましょう」。1つの情報を発信すると、2~3の情報は集まってくると思います。

    小田:前多先生、本当にありがとうございました。

    話し手

    前多昌顕先生 … つがる市立育成小学校(青森県)教諭。MIEE。
    Best Learnig Activity Award受賞。Flipgrid認定教育者レベル3(日本初)。他にGoogle、Apple、embotなどからも認定を受ける。NPO法人学修デザイナー協会理事。
    YouTube:MIEE MAETAのお手軽ICT活用

    聞き手/ライター

    小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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