2020.06.26 Fri

教科の本質は外さずに、修学旅行も行う。子どもをいつでも中心に。

新潟大学附属新潟小学校の椎井慎太郎先生(社会科)へのインタビュー。

附属としての使命。

小田:第3回目を迎えたこのインタビュー企画。今回は学校名等の公開についてご承諾をいただきましたため、新潟大学附属新潟小学校にお勤めの椎井慎太郎先生(社会科)にお話を伺ってまいります。
早速ですが、御校のHP中「新型コロナウィルス感染症に対応した取組の紹介」を拝見させていただきました。特にオンラインを活用した取り組みの充実に驚いたのですが、まずはこの取り組みの土台づくりがいつから始まったのかということから教えていただけますか。

椎井先生:本校では平成29年度からBYOD(Bring Your Own Device)という取り組みを開始したのですが、この取り組みは、各家庭でご準備いただいたデバイスを学校に持ってきていただき、それを教育活動で活用するものです。

小田:今話題のGIGAスクール構想とは逆の発想ですね。

椎井先生:デバイスは個人持ちになるため土日は自宅に持ち帰って充電、平日は授業で積極的に活用するというサイクルがBYODのメリットになります。このBYODを平成29年度から4、5年かけて取り組んできたのですが、この4月に全児童が個人持ちの端末を準備することができました。そのような背景がありますので、子どもも情報活用能力に素地がありますし、保護者の理解もありますし、私たち教員もある程度のタブレット等の操作はできる状態で、今回のオンラインの取り組みを始めることができました。

小田:オンラインを教育活動に取り入れるための確かな土台形成と意識共有がなされていたことは、御校でのスムーズな教育活動への応用のみならず、全国の先生方に向けたスピード感のある情報発信にも繋がっていったと感じます。

椎井先生:本校の教員がそれぞれの実践を通したノウハウの蓄積に努めるばかりでなく、附属の使命として、今回のコロナ禍においては「なるべく速く、質は高く」ということを大切に、情報発信を行っています。

小田:もう1つ。今回の新型コロナウイルスの影響に伴う休校期間中では、全国的に、家庭学習用プリントの配付等で子どもたちの「学びをとめない」という動きがあったと思います。この取り組みの対象者は子どもだったわけですが、御校HPでは「家庭・親子で取り組める活動集」という、”親子で”というキーワードが挙がっていたことにとても感銘を受けました。この取り組みの経緯も教えていただきたいです。

椎井先生:この取り組みは3月末ほどから検討をしていました。その時話題になっていたのは、STAY HOMEによる「運動不足」、それから「関わり不足」だったと思いますが、こんなときだから親子で楽しく関わりながら、学習にもつながるような取り組みをしたいと願いを込めました。

小田:保護者の方から「やってみました!」というお声もあったのでしょうか。

椎井先生:「親子でやれて良かったです」とか、「コロナ禍による停滞感がある中で久しぶりに親子一緒に笑いました」というお声はいくつかいただきました。

対面と遠隔を組み合わせた社会科の新授業スタイル

小田:学校再開した今、椎井先生がこれからの教育活動をどのように捉えていらっしゃるのか気になります。社会科としての今後の方向性を教えていただけますか。

椎井先生:6月11日に文部科学省の初等中等教育局から出された、これからの遠隔・オンライン教育等の在り方に関する資料があるのですが、ここには「児童生徒の学びを保障するため、ICTを活用しつつ、教師による対面指導と遠隔・オンライン教育との組み合わせによる新しい教育様式を実践する。」とあるんですよね。まずはこのような教育の流れに即した取り組みを実施していきたいと考えています。

小田:いま、全国の先生方は共通の課題として授業時数の問題とも向き合っていると思います。この点についてはいかがでしょうか。

椎井先生:これについては、「2時間分を1時間でやらざるを得ない」「どんどん教えて、教科書を消化していこう」と、”詰め込むしかない”という判断をするのが、私たち教師の自然な意識だと思います。ただ、これを子ども目線から考えたとき、危険だと感じているのが附属新潟小の考えです。

小田:ひたすら教科書を読み、教えられるだけの連続は子どもにとってはつまらないということですね。

椎井先生:そこで、対面と遠隔をうまく組み合わせていくことが大事だと考えています。少し丁寧にお伝えすると、社会科では、①学習問題をつくり(学習問題の設定)、②予想ならびに学習計画を立て(解決の見通し)、③自分なりに調べてみて(追究)、④はじめにつくった学習問題の解決に向かわせる(学習問題の解決)、という4つの学習過程を大事にしているのですが(下図)、これら4つを今の限られた時数で行うのは厳しいと感じています。社会科で大切にしたいと考えているのは学習問題の解決(④)なので、子どもたちが追究活動(③)で調べた具体的な知識をもとに、「こうじゃない!あーでもない!」と概念的知識を獲得していくことを社会科の本質として捉えています。

椎井先生:ただ、この追究活動(③)になかなか時間が取れず、学習問題の解決(④)にも時間が取れないから教師が答えを教えてしまう、となると社会科の本質から外れますし、これは最も避けたいと考えています。そのため、学習問題の解決(④)の時間をしっかり保証するために問題解決過程の中のどこかの場面を削り、コンパクトにする必要があるわけです。そこで、追究活動(③)は家で行うこととして、そこで浮いた時間を学習問題の解決(④)に充てていくという新しい授業スタイルを実践しています。

小田:そのような工夫をすることで、社会科の本質を外さずに学習の保証をされているわけですね。まさに対面と遠隔のコラボレーションを感じます。

工夫をすることで、修学旅行をなくさない。

小田:少し視点を変えて、行事の実施について教えていただきたいのですが、修学旅行は受け入れ先の都合も含めるとなかなか実施が難しいというご判断でしょうか。

椎井先生:私は5年生の学年主任なのですが、ちょうどいま、修学旅行等の遠足・集団宿泊的行事の検討を行っているところです。本校は、5年生は佐渡島に2泊3日、6年生は立山(富山県)に3泊4日を予定しています。6月下旬現在,5年生は、本来であれば5月に実施するところを8月末に順延する方向で検討しています。

小田:3密対策はいかがでしょうか。

椎井先生:例えば、例年であれば大型バス2台で移動するところを、今回は大型バスを4台準備して、2席に1人が座ることができるように考えています。また、佐渡島に行くためには船に乗る必要があり、当初は、現地での活動時間を長くするためジェットフォイルを検討していたのですが、代替策として窓を開けたり密をできる限り避けることができるカーフェリーに変更しました。

小田:宿泊機関についてはいかがですか?

椎井先生:例年は10畳で5人の宿泊をしていたのですが、今回は10畳で3人の宿泊にできるよう部屋数を増やす対応を考えています。輸送機関と宿泊機関については特に3密を避けることができるよう、旅行会社とは何回もやり取りをしました。それでも、なんとか実現させてあげたいという願いのもと、工夫をしているところです。

小田:大胆な変更をせざるを得なかったと思うのですが、予算は大丈夫だったのでしょうか。

椎井先生:そこは気になりますよね。バスを増便し、部屋を増やしたわけですからね。ただ、実は例年よりも1人当たり約1500円の増額で済ませることができそうです。というのも、当初使用を検討していたジェットフォイルは速い分船賃が高く、これをカーフェリーに変更したことで船賃が安くなりました。修学旅行先が佐渡島だからできたことでした。

企業の協力への期待

小田:今後のよりよい教育活動実現のために社会の動きへの期待というものはあるのでしょうか。

椎井先生:真っ先に思い浮かんだのは、GIGAスクール構想の方針転換によって今年度中に1人1台の端末環境整備が進むことになったと思いますが、その端末を使いこなすスキル面について、私たち教員が追いつけるのかというのが気になります。誰にでも得意不得意があるのですが、「使ったことがないから」「そういうのは若い人がやればいいから」等というような意識を残したまま3月を迎えてしまうとそれは危険だと感じています。

小田:第二波のことも言われているため、シビアな問題と感じます。

椎井先生:すべての教員が、ある程度はタブレット端末を使える素養、スキル、そして意識をもたなければいけないと考えています。だからこそ先進的な取り組みをしている学校や教員は、研修会の講師として知見を伝え、「気軽にやっていきましょう」というメッセージを発信していかなければいけないと思っています。

小田:ICT支援員の活用も大切ですね。

椎井先生:それに加えて、これは企業へのお願いになると思うのですが、教育系のICTに長けた方が学校との関わりをもっていただけるとありがたいと感じています。

小田:子どもたちに視点を向けるといかがでしょうか。

椎井先生:私は社会科の次にキャリア教育を専門としていることから、5年生の総合学習の時間にキャリア教育を取り入れています。ここに学校外の人を呼びたいと思い、Zoomで職業講話をしていただく取り組みを始めました。子どもたちの職業観や勤労観を育むために、多様な大人に話をしてもらうことで「こんな職業もあるんだ」と子どもが感じることがねらいです。そこで企業の方にもう1つのお願いとしては、社会科やキャリア教育においては外部の協力がないと学習が発展していかないと考えているので、「Zoom等でいつでもつながれます」というような積極的な発信をしていただけると本当に助かります。

小田:先生方の目に届きやすいよう、広報の仕方にも工夫をしていただきたいところです。企業にとっても、学校との直接のつながりをもつことはメリットがあると感じています。

全国の先生方へのメッセージ

小田:最後に、全国の先生方へメッセージがあればいただきたいのですが。

椎井先生:附属新潟小が共通してもっている意識にはなりますが、コロナ禍だからこそ子どもを中心に考えたいと思っています。時間が無いから授業を急がないといけない、行事もできないだろう、という発想は、厳しい見方をすると私たち大人中心の考え方だと思うのです。これは私自身への自戒の念も込めたものですが、今だからこそ、「子どもはどうしたら意欲的に、わくわくしながら授業に臨んでくれるのだろうか」と、子ども中心の教育活動を考えていきたいですし、そうしてほしいというのがメッセージでしょうか。

小田:椎井先生、お忙しい最中にインタビューにお時間をいただき、本当にありがとうございました。御校では、オンラインでの公開授業研究会「GATA-KEN Online」が開催中と思います。オンライン開催ということもあり全国の先生方がご自宅等から気軽に参加できるこの機会を、ぜひご活用いただければと思います。

話し手

椎井慎太郎先生 … 新潟大学附属新潟小学校教諭。

聞き手/ライター

小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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