2020.07.14 Tue

新しい仕掛けから、新しいつながりを。

群馬県の小学校にお勤めのベテラン先生(N先生)へのインタビュー。

あそびの時間から緊張する時間へ。

小田:今日は群馬県の小学校で、1年生の学年主任をされているN先生にお話を伺ってまいります。まずは、今年度に入ってからの学校の動きについておおまかに教えてもらえますか。

N先生:入学式を4月7日に予定していたのですが、2日遅れて、4月9日に実施できました。その後は週に1回の登校日を設けたり、課題を保護者の方に取りに来ていただくなどしながら2か月間を過ごしました。5月後半から学年を2つのグループに分けた分散登校が始まり、6月からは全児童が一斉登校を行うことができています。ただ、本当であれば朝行事の時間に体育集会や音楽集会、縦割り活動で同じ町の子どもたち同士で一緒に遊ぶという時間があったのですが、それらは一切なくなってしまいました。

小田:同じ地区の子どもたちと一緒に遊ぶ活動というのは、具体的にはどのような活動だったのでしょうか?

N先生:もしかしたら私の勤務地独自の活動なのかな…(笑)。市内では学校によって縦割り活動や町別集会(同じ町内で1〜6年生をひとつのグループにして活動する)という名の仲間づくりの活動があります。毎回6年生が遊びの計画を立てて、1年生から6年生までの縦のつながりで一緒に遊ぶという活動です。そこには担当の先生もついて楽しく遊びます。

小田:ものすごく素敵な活動ですね。ただ、このような活動も今回のコロナでできなくなってしまったこと、残念です。

N先生:朝は、まず玄関に入る前に児童同士の距離を保った状態で、校長先生と非接触型体温計で体温測定をしてから中に入ります。玄関では養護教諭と消毒、教室に着くと担任の先生に検温表を出して…というような時間になりました。子どもたちはちょっと楽しくないですよね。

小田:子どもたちの身を守るために大切な手続きなのは理解しているのですが、それでも子どもたちの不安感を誘っているようにも思えます。

N先生:子どもたちは、朝が一番緊張しているようです。玄関に入る前、非接触型体温計で測定する時に「今、もしお熱があったらどうしよう」ってどきどきするらしいです。朝、家を出る時も、もちろん家庭で検温してきているのですが。

お友達と仲良く話したい。学校再開時の子どもたちの声。

N先生:今回の新型コロナウイルスについては、子どもたちの中での認識の差を感じています。保護者の方と様々なニュースをメディアやSNSで見ている子は、かなり深く情報を知っている一方で、全然ニュースを見ていない子は「ただの風邪と同じなんでしょ?」と言ったりしています。

小田:子どもたちと危機意識を共有していくために、学校として取り組まれたことはあるのでしょうか。

N先生:学校が始まる時に、養護の先生と連携して新型コロナウイルスのあのいぼいぼの形をイラスト化し、「見えないところにもこういうのがいるんだよ」というのを視覚的に見せました。1年生なので、怖がらせないように気を付けつつも、「みんなでこのウイルスに気を付けようね。気を付け方はまず、手洗いとうがいだよ」と語りかけるように伝えました。

小田:子どもたちの心のケアに繋がるような取り組みはされているのでしょうか。

N先生:新学習指導要領施行となり教科書も新しくなりました。「主体的・対話的で深い学び」の視点や学び合いの活動、…1年生の場合は、まずペア学習による学び合いを始める予定でした。初めて出会うお友達と仲良くなれる機会を4月から持つ予定だったはずが、なかなかできていないのが現状です。座席は可能な限り離されていて、給食を食べる時も向かい合うことができず、全員黒板の方を見ながら黙々と食べます。密になってはいけないということは毎日事あるごとに伝えているので、6月に学校再開した当初は、お友達の名前を覚えられなかったり、クラスの全員とまだお話しできていないという子が何人もいました。「新しいお友達と仲良く話したい」という声もありました。

小田:切実で、心が痛いです。

N先生:子どもたちは様々な保育園や幼稚園から入学しているので、場合によってはその保育園の出身は1人だけということもあります。入学式で初めて顔を合わせたけれどもその後すぐに休校となり、いざ学校が始まってわくわくして登校したら、席同士が広く離されていて、先生からは「向かい合って仲良く話してはいけない」とか「手をつないではいけない」とか言われるので、子どもたちは困っていたと思います。「保育園の時にはお友達と仲良く手をつないで一緒に遊んだりしていたよ?」と言われたこともあったのですが、「それは学校では今はできないんだよ」と、子どもたちを悲しませるようなことしか言えなかったのがとても辛かったです。ただ、今は少し制限が緩和されたので、一定の距離は保ちながらも友達とお喋りしたり、外で遊んだりできるようになりました。

「つぶやき」から「つながり」を。

小田:先ほどには、新学習指導要領に関する指摘があったと思うのですが、今の活動制限下における教育活動と、新学習指導要領で大切にしたいと言われている活動とを見比べたとき、その方向性に開きがあるように思うのですが、この点について、N先生の工夫を教えていただけると嬉しいです。

N先生:1年生の場合は、ペア学習で学び合いを進めていくことがとても良いと感じているのですが、それもなかなかできない。外に出て虫を観察するにしても、虫を見つけると子どもたちがワーッと密になって集まってしまう。1年生の子どもたちというのは集まりたい、くっついて話したい、仲良くなりたいという習性があるように思います。でも、直にふれあう活動など今はできない。そこで、教室の壁に子どもたちが「つぶやき」を書けるようなスペースを作ってみました。

小田:面白いです!

N先生:「〇〇で遊びたいな」とか「僕の好きな動物は〇〇だよ」というような、何気ないことを書くのですが、ちょっとした隙間時間に「ちょっとつぶやいてみる?」という具合に切り出し、子どもたちに付箋を渡して、一人一人が書き終わったら壁に貼っていきます。アナログのTwitterのようなものでしょうか。

小田:真似をしたい場合は、具体的に、どのような準備をすればよいのでしょうか。

N先生:1人につき、端に記名したA4用紙1枚をラミネートをして、それを壁に掲示します。一人ずつのつぶやきコーナーがあるイメージです。ラミネートなので付箋を貼ったりはがしたりもできます。

小田:文字を書く練習や誰かに思いを伝えるなど、様々な教育的なねらいが含まれているように感じますが、特に子どもたち同士のつながりを生む仕掛けとして機能している印象を受けました。このような取り組みをきっかけに、「主体的・対話的で深い学び」に向かう土台が構築されていくのだと感じます。

マスクという壁

小田:活動制限の中での授業はお困りごとも多いと感じています。N先生は英語主任もされているとのこと。詳しく教えてほしいです。

N先生:英語ではコミュニケーションがとても大切なのですが、密になって話すことはできないので、1対1のやり取りで「話す」活動はなかなかできないのが現状です。勤務校のある市は英語特区になっていることもあり、1年生から英語の授業があります。今、マスクで英語の発音がうまく伝えられないことにとても困っています。音楽や国語の授業もそうなのですが、音声を伝える上でマスクが本当にネックになっていると感じています。

小田:先生の口元を見て真似をすることのできた口形の指導について、なにか代替案をとられているのでしょうか。

N先生:本当であれば、担任の先生が子どもたちの目の前で発音を出しながら、口形を見せてあげるというのが一番効果的だと思います。現在はDVDやデジタル教科書等を見せながら口形を確認しています。フォニックス体操のDVDは、音楽に合わせて楽しく口や体を動かすだけで、英語らしい発音ができるようになります。

小田:さらに視点を拡げて、第二波への懸念も含めていただきつつ、今後の教育活動をより良くするために、「こんなものがあったらいいな」というアイデアはありますか。

N先生:低学年の子でも自分ひとりで、安全かつ手軽にリモート授業やクラスのネットワークにつなげられるシステムができればいいなと思います。…夢みたいな話でしょうか。共働きのご家庭が当たり前となり、保護者の方もお子さんにずっと付き添っていられないのが現状です。子どもたちにとって一番簡単なのは「テレビのスイッチ」ですよね。アメリカでたくさんのケーブルテレビチャンネルがあるように、スイッチひとつで小さな子でも安全に、且つ簡単に自分の担任や友達、学校とつながる機器、端末があればいいなと思います。もしZoomで授業をやったとして、不具合が起きた時に1年生ひとりではとても対処できません。そして、まだインターネットの便利さや怖さを授業で学んでいない学年ですから、不安がいっぱいです。

小田:最近の子どもたちは、ゲーム上でつながっているという声も耳にします。ゲームがインターネットに繋がっていて、そこが交流ポイントになっていることも今回のコロナでは特徴的だったと思います。

N先生:ゲーム機器でできるのならば、iPad等ちょっと低学年の子には使いこなすのが難しい機器でなくてもいいのではないかと思ってしまいます。小・中・高の違いや公立・私立の違いに関係なく、すべての学校で、もっと手軽で簡単に先生や友達と対話ができるような技術の進歩に期待したいです。

全国の先生方へのメッセージ

小田:最後に、全国の先生方にメッセージがあればお願いします。

N先生:自分が感染しないように、また子どもたちが感染しないように、先生方は今まで感じたことのないストレスと闘っておられると思います。私も緊張感いっぱいで、心がヒリヒリするようです。今はそういった本音や弱音を教員が吐ける場所がなかなかありません。「今、これが辛いよ!」ということを自由に言い合う時間もないです。授業・給食・清掃・休み時間…と教室で長時間、子どもたちと関わる担任の先生同士が、気持ちを共有できるといいなと思います。学校間を越えて横でつながりあいたいです。困り感や不安感を共有することで、そこから新しいアイデアが生まれてくるのではないかと思います。

小田:N先生、大変お忙しい最中、インタビューにお力添えをいただきありがとうございました。

話し手

N先生 … 群馬県にて小学校教諭。

聞き手/ライター

小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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