2020.06.12 Fri

活動制限の中でも、子どもたちが創り、学んでいく学校を。

東京都内の小学校で3年生の担任をされているベテラン先生(U先生)へのインタビュー。

週1回の電話が埋めてくれたもの

小田:「POWER FOR TEACHERS」のこのインタビュー企画、1人目として、U先生をご紹介させていただけること、大変うれしく思っております。お引き受けをいただき、本当にありがとうございます。はじめに、今回のコロナによる学校休校というのは、前代未聞のことだったと思いますが、休校判断に伴い、頭によぎったことを教えてもらえますか。

U先生:まずどれくらい続くのかが分からなかったので、学校再開後、時数を大切にするのか、内容を大切にするのか。それから、どうしても活動に制限が出てくるので、制限することが望まれる活動については実施をしなくても良いのか、それとも時期をずらしてでも実施できるように計画を立て直す必要があるのか。それらをどのように判断していくのかが分からず、不安でした。

小田:休校中の他校での取り組みについて、情報収集はされていたのでしょうか。

U先生:副校長が他の学校の状況を聞いてくれたり、指導室の先生が問い合わせてくれたりとか。私も他の学校の教務主任に「いま、どんな状況?」と聞いたり、Zoomを使って別地区の様子を聞いたりはしていました。

小田:休校中の子どもたちとのやりとりについてはどうでしたか。

U先生:私の地区だとオンラインの環境が整っていなかったので、週に1回、家庭に電話をするということをやっていました。その時にまず、保護者の方にお子さんの様子やご家庭で心配に思っていることがないか伺ったりして、その後子どもに代わってもらい、「元気にしてるのかな?」「心配なことはない?」と聞いていました。「つながりをもっていこう」ということを地区全体として大切にしていたことがこの背景にはあります。

小田:ご苦労が多かったと拝察していますが、保護者の方への安心にもつながる取り組みだったと感じます。子どもたちは、U先生と直接電話ができて、嬉しい様子でしたか。

U先生:私は3年生の担任で、学級替えをしてすぐに休校になったので、緊張していたというのが1回目の印象です。電話の受け答えも最初はおぼつかない様子で、少しずつ慣れていったという感じですかね。

小田:電話でのつながりによって、担任の先生と子どもたちが会えなかった期間の”穴”のようなものを埋められていたのかどうか、個人的にはそのあたりも気になるところです。

U先生:子どもたちの中で「担任の先生がこの人だ」という認識にはつながっていったと感じています。あとはこの前、分散登校の時ではあったのですが教育委員会の方が学校にいらしたとき、「子どもたちが明るく学校生活の中に入り込んでいる」ということをご指摘くださいました。そういう意味では、新しい担任で緊張はしているんだけれども、つながっていたからこそ(子どもたち自身が)固くはなかったんじゃないかと思います。

再開して感じた保護者の方の協力、教員同士の新しい連携

U先生:学校が再開した今、保護者の方のご協力はとても大きかったと感じています。教員としては、子どもたちがずっと家にいたことで”集団行動として気を付けるべきこと”が身についているのか心配していたのですが、僕らが教える前から子どもたちが意識していると感じたので、各家庭の中であらかじめ伝えてくださっていたのだと思いました。

小田:家庭と協働した教育というのは、かねてより大切なキーワードとして言われているかと思いますが、その点で、何か休校以前との違いはあったりするのでしょうか。

U先生:保護者の方の意識の変化というのはあるかもしれません。日頃、子どもたちは学校で6時間の学習をしていたわけですが、家の中で6時間集中して学習することはなかなか難しいと思います。「学校でそれだけ長い時間勉強できるのって一緒に学ぶ友達がいるからなんだな」と、おっしゃってくださる保護者の方もいました。

小田:とても共感します。各家庭との連携の他、学校内での教員同士の連携という視点についても、何か以前と比べて変化があったのでしょうか。

U先生:今の分散登校だと担任の先生が子どもたちを見る時間が多くなるので、例えば専科の先生に、昇降口が密にならないように声掛けをしてもらうとか、分散登校の対象児童ではない子どもたちを受け入れる教室の見守りをしてもらったりとか、消毒作業をしてもらったりとか、教員一人ひとりの役割分担を意識するようにはなりました。

小田:新しい連携こそ、今の状況を乗り越える工夫ということですね。

U先生:勤務校では給食はまだ始まってないんですけれども、午前中に授業を全て詰め込んで、午後は先生方の会議をするようにしているんですね。新しく来られた先生だけでなく、育休代替の先生も多いので、学年でしっかりと情報共有をしていく時間を作るようにしています。

小田:とても効率的で、危機管理にもつながっていく重要な取り組みだと感じます。

U先生:今、一コマを30分に凝縮した授業をやっているのですが、1回の授業の進度にズレがあると後々厳しいことになるので、学年間で授業の計画や流れを確認して、若い先生でも授業ができるように教員同士が教えあうような研修システムが出来ています。今は分散登校のために同じ授業を2回ずつ行うので、若い先生たちも研修をしながら日々を過ごしています。

小田:教員同士が教えあう。理想的な職員室に思えます。

U先生:正規の職員だと初任研等があるところ、講師の先生だとそういうのがないですよね。そこで、具体的には今は2回授業があるうちの、1回目のT1を専科の先生、T2を講師の先生が担当して、2回目は役割を交代、授業後は専科の先生が講師の先生にアドバイスをする、というようなことを自主的に先生方が取り組んでいます。

活動制限の中でも大切にしていきたいこと

小田:これまでの子どもたちの学びのスタイルを思うと、「密の中での学び」みたいなものもあったのではないかと個人的には感じています。お友達と寄り添いあっておしゃべりしたり、共同作業をしたり。その中で子どもたちが集団と共に生きる力を育んでいたようにも思います。いま、この状況なので、このような学びも制限していくべきなのか、悩ましいところです。

U先生:例えば水道やトイレが密になってしまうのを避けるとか、普段の生活の中では距離を取っていく必要性を子どもたちにしっかりと伝えていかなければいけないと感じています。ただ、学習の中であまりそこを意識しすぎると学校が楽しくなくなってしまう危険性もありますよね。マスクの着用や、換気を十分に行っていくことをよりどころに、あまり「あれはやっちゃだめ!」と言いすぎないようにするなど、バランスを取っていきたいと思います。

小田:小学校という場は、子どもたちが就学前に育んできた様々な人間関係の中での学びを大人になる過程でさらに発展させ、拡がりを持たせるという意味で、とても重要なものだと個人的には認識しています。それゆえに、子どもたちの体の中にはそういった関係性の中で学んでいくということが染み込んでいるようにも感じているのですが、そうした観点で見ると、子どもたちはこの状況下で「あれはやっちゃダメ!」と言われすぎると今までの学びの積み重ね方とのギャップを感じてしまうようにも思います。「ダメ」と言いすぎないことで、子どもたちの連続的な育ちを守ってあげることをU先生はとても大切にされているのだと感じました。

U先生:教育長から「子どもたちの笑顔を大切にしてほしい」というようなメッセージがあったんですね。今、行事の実施も検討しているところで、学校という場はソーシャルディスタンスを常に保つというのは難しいところもあるのですが、換気の徹底や長時間の実施を避けるというところで、できるかぎり実施をしていきたいとは個人的にも、学校全体としても考えているところです。各教科での取り組みについて検討を進めることもそうですが、子どもたちの学びの保証をしつつも、学校としてはどこに一線をもつかということを、管理職も含めて学校全体で理解したうえで子どもたちに活動させていこうとは思っています。

小田:先生の学校では特別活動の実施についてはどのようなご判断ですか。

U先生:クラブ活動については、4~6年生と少し人数が多くなってしまうので、1学期はやらない方向です。委員会活動については5、6年生が取り組んでいて、人数も分散されるので6月から実施していく予定です。「子どもが学校を創っていく」ということを目指すためには委員会活動は重要なのではないか、と特活の主任とも話しをしました。

小田:学校の目指すヴィジョンと教育活動に一体感があり、「子どもが主役である学校」という柱をしっかりと感じます。

U先生:「子どもたちが学校を創っていく」「子どもたちが学んでいく学校を目指していく」という管理職の方向性がはっきりしているので、学校全体としてもこういう活動を大事にしていこうという想いがあります。

教育活動をさらに安定させるために

小田:現在のお困りごとや、懸念等はあったりしますか?もしかすると、この記事を見てくださっている企業の方や大学の先生等がなんとかしてくれるかもしれません。

U先生:オンライン実施の環境を整えてあげたいとは思います。今後、また分散登校にしなければいけない等の事態になったときに、学校の先生たちは忙しいんですけれども、子どもたちは学校に滞在する時間が短くなってしまいます。そうなると、家で学習をせざるを得ない環境になると思うので、例えば一人一人にパソコンがある状況ですとか、プリンターがあると助かります。

小田:プリンターがあると、活動の幅は確かに広がりますね。

U先生:あとは、もしかすると既に実現している学校もあるのかもしれませんが、集会や行事などの実施が難しい場合を考えると、体育館等の広い場所で実施している取り組みを各学級や専科教室などでリアルタイムで観られるようなシステムがあると、蜜を避けて行える活動が増えるかもしれないと感じています。

小田:その他にも、先生ご自身が授業実施を検討する上であると助かるものも思い当たりますか?

U先生:指針が欲しいです。授業時数を優先するよりも、学習内容をきちんとやればいいというのはあると思うのですが、ただどの活動内容を割愛しても良いのかは判断が難しいです。学校ごとに決めていいものなのか、不安に思う先生方もいらっしゃる印象をもっています。

全国の先生方へのメッセージ

小田:最後に、全国の先生方へメッセージがあればいただきたいのですが、よろしいでしょうか。

U先生:子どものことを第一に考えて、それから先生自身も余裕をもっていろいろなことに取り組んでほしい。職員にしても、各家庭の保護者の方にしてもご協力いただけていることがありがたいので、みんなで乗り切りましょう。

小田:U先生、お忙しい最中にインタビューにお時間をいただき、本当にありがとうございました。

話し手

U先生 … 現在、東京都内小学校にて3年生の担任。

聞き手/ライター

小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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