2021.01.29 Fri

ICTで子どもたちはフェアになる。オタクでなくとも、「真ん中」を目指しましょう。(前編)

つがる市立育成小学校(青森県)にてお勤めの前多昌顕先生へのインタビュー。
  • 情報発信を通して新しい情報が得られる他、思考の整理やアーカイブ化につながる。
  • ICTの活用については、オタクでも底辺でもなく、真ん中に合わせましょう。
  • ICTによって、初めて子どもたちがフェアになれる。
  • ICT教育を中心に、多岐にわたる活躍。

    小田:今回は青森県に位置するつがる市立育成小学校にてお勤めの前多昌顕先生にお話しを伺ってまいります。はじめに、自己紹介をお願いします。

    前多先生:私が勤めている学校はへき地校ではないのですが、”へき地性”のある学校のため、現在は5~6年生の複式学級の担任をしています。その他、教務主任と3年生の外国語専科も担当しています。

    小田:今回、前多先生にお話しをお伺いしたいと思ったのは、先生のICTに関するお取組みにとても関心があったからです。前多先生とICTの関わりについてもお聞かせいただきたいです。

    前多先生:私は初任の頃からICTの教育活用に関心を寄せていました。一方で、なかなかICT環境が整備されない実態や、ICTを教育活用しようとすることへの周囲の理解も得づらく、マジョリティにはなれないことを感じていました。そうした背景から、いったんはICTを私の研究対象から外しました。ただ、プログラミング教育が必修化するタイミングで、今一度ICTの世界に戻らなければいけないと思い、本腰を入れ始めたという流れです。
     以降、「Flipgrid」というMicrosoft社が提供している、動画を活用したソーシャルラーニングサービスの日本で最初の認定教員Level3を取得したり、MIEE(マイクロソフト認定教育イノベーターエキスパート)を取得し”Best Leaning Activity Award”という賞もいただいたり、近年では「Microsoft Education Exchange」というMicrosoft社が主催する世界最大級の教員研修イベントがあるのですが、その2020年度の日本代表に選んでいただきました。
     このように、主にMicrosoftにご縁があったのですが、私の勤務する地域ではGoogle製品の導入をするらしいという話を聞いてからは、Googleの認定教育者Level2も取得しました。

    小田:ICTの教育活用への想いや造詣の深さが、社会からも高く評価されていることを感じます。

    前多先生:その他にも、NPO法人学修デザイナー協会を数名で立ち上げ、「学修デザインシート」という、授業づくりのための思考ツールをつくる活動もしています。

    小田:前多先生はご紹介頂いたNPOの理事もされていらっしゃるとのこと。学校に、地域に、社会にと多岐にわたるご活躍に圧倒されています…。

    新しい情報は、情報を発信する人のもとへ集まってくる。

    小田:前多先生は「MIEE MAETAのお手軽ICT活用」というアカウント名でYouTubeのチャンネルもお持ちでいらっしゃいます。ここでは、Flipgridの使い方の他、先生の実践等も動画で紹介されています。このYouTubeチャンネルを作成された背景について、教えていただけますか。

    前多先生:もともと、ブログという言葉が世の中に出始めたころから、情報発信は積極的に行っていました。新しい物好きとしてYouTubeの存在も認知しており、これからの情報発信について考えるうちに、動画という発信方法は避けては通れないと思うようになりました。
     正直私は、動画を見ることは好きではありません。時間がかかるからです。動画であれば30分の動画は30分見なければいけませんが、文字ベースであれば必要な情報をささっと追えばあっという間に情報を得られます。
     ただ最近、発信したい情報は動画にしなければ人に伝わらないということに気づいたため、動画を見るのは好きではないけど、情報発信のために動画を作るということを始めました。

    小田:YouTubeは、必要な時に、必要な情報が「動画で」みられるツールとして、急速な発達を見せています。そうした特性と現代社会がマッチしたのか、YouTubeは本当に幅広く、多様な情報のプラットフォームになっています。エンターテインメント要素の強い動画だけでなく、役に立つ動画の閲覧数もとても多いい印象です。

    前多先生:私が情報発信をし続けているのはいくつかの理由があるのですが、1つ目は、情報を受け取るだけではあまり新しい情報は集まってこないけれど、「発信する人のもとへは新しい情報が集まってくる」と考えていることです。
     もう1つは、情報発信をすることで、思考が整理され、その痕跡がアーカイブ化されていくことです。その意味では、誰かのために情報発信をするというよりは、自分のために情報発信していると思います。

    小田:発信した情報をご覧いただき、コメント等をいただけることはとても励みになりますし、「私はこうしているよ」という情報も集まってきます。また、情報だけでない、そうした人とのつながりができていくことも魅力的です。

    「真ん中」に合わせましょう。

    小田:いま、全国がGIGAスクールのために準備を進めている渦中と思いますが、「ICTを使ってどんなことができるか」と前向きに検討を進めていらっしゃる先生もいる一方で、日ごろのお忙しさも相まって、なかなかICTの活用に前向きになりづらい先生もいる印象をもっています。
    前多先生も、たくさんの努力を積み重ねていらした結果、資格等を取得され、そうして身につけられた技を教育活用されていると思います。いま、GIGAスクールを目前としたこの状況を、どのようにご覧になられているのでしょうか。

    前多先生:はじめに、少し厳しい視点かもしれませんが、感じていることを率直にお伝えさせてください。
     振り返ると、道徳や英語が教科化されるとなった当時もこれに対する反対はあったと思います。個人的にも英語は苦手だったので教科化には反対だったのですが、研修も受け、今では外国語専科も担当するようになりました。ただ、ICTについては「できません」が通用してしまっているような印象をもっています。まず、これを不思議に感じています。
     加えて、私は字をきれいに書くことが苦手なのですが、初任の頃、「板書はきれいに書きなさい」と先輩教員に指導をいただいたことがあります。板書は上手にできる人を基準にして、そこに目標意識をもっていくような流れがある一方で、ICTはなぜかできない人に合わせることについても不思議に感じています。

    小田:新しい教科が必修になるといった「教える内容が変更されること」と、アナログからデジタルになるといった「教える方法が変更されること」の違いが社会的に浮き彫りにされたようにも思います。

    前多先生:私はもはやオタクとも言えるので、そうしたオタクのレベルに合わせる必要はないと思うのですが、一方で底辺に合わせるのも違うと思います。「真ん中に合わせましょう」というのが、私の考えです。

    小田:オタクという名の専門家の方がいらっしゃることは大きな希望であり、そうした方が先端を走り続けてくれるからこそ新しいモノ・コトが生まれ、それらが次第に一般的にも受け入れられるようになり、定着していくのだと思います。先端を走り続ける先生方を応援しつつ、先端を目指さなくとも、「真ん中」が基準になるような雰囲気醸成へ導けると良いと感じます。

    前多先生:余談になるかもしれませんが、かつて学級での会計簿を作るために、ボタン1つで整形までしてくれるようなものをエクセルで作ったのですが、それを見た先輩教員から「楽しようとするな」と指導されたことがあります。今ではそんなことはないですが、ただ、効率化することがネガティブに捉えられていた頃もあったと感じています。

    小田:これまでインタビューをさせていただいた先生からも話題に挙がっていますが、今回のGIGAスクールは教員の働き方の効率化とも関連が深いと思います。そう思うと、「昔はこうやっていた」というマインドからのアップデートも求められているのかもしれません。

    ICTによって、初めて子どもたちがフェアになれる。

    小田:前多先生にとっては当たり前のことを聞いてしまうことになると思うのですが、そもそもICTを使った教育のメリットと申しますか、根本的な部分についてお考えを教えていただきたいです。

    前多先生:へき地性のある学校に勤めている教員としては、青森の奥地で教育をしていくなかでのいくつものデメリットを感じています。東京を含む都市部と比べるとハンディキャップは大きい印象です。ただ、ICTを活用することで、これまでの課題であった物理的、距離的な制約が取り払われると考えています。つまりは、ICTを活用することで、「初めて、子どもたちが置かれている環境がフェアになる」と感じています

    小田:学校の近くにお住まいの方の属性も、農家の方が多い場合と、非常に多様な職業の人が混在している場合とでは、子どもたちの学びに影響がある印象です。

    前多先生:例えば、国語の授業の単元として「インタビューをしてみよう!」というものがあったとすると、やはり青森の奥地だと農業の人が主になってしまい、広がりは得づらいです。ただ、ICTを使えば、私の知り合いでもある全国の経営者の方にTeamsでインタビューができます。そう思うと、ICTによって、時間的、空間的制約から解放され、今までできていたこと以上のことができるようになると思います。

    小田:コロナによる一斉休校期間中、少しでも子どもたちが学校に来られるようになったとき、学校に登校しなければできないことはなにか、という検討もありました。転じて、これからの時代を考えた時、アナログでしかできないこと、アナログでもデジタルでもできること、デジタルでしかできないこと、という考え方も前多先生のご意見に関連してくるように思います。

    前多先生:これからは、アナログでもデジタルでもできることは「デジタル」でやるべきだと感じています。そして、デジタルのメリットについても、丁寧に検討を進めてほしいと考えています。
     例えば、「壁新聞を作ろう」というような活動をする際、今までだったらば5~6人が1組となり、床に座って活動を進めていくと思いますが、そうすると、だいたいは発言力がある子が紙(壁新聞)に対して正面に座り、そうでない子は、紙を逆さからみることになるのが通例だと思います。そうすると、もちろん紙が見にくい子が発生し、飽きてくるかもしれません。つまりは、フェアではないわけです。
     そうした気づきを踏まえ、今の私の学級ではICTを使い、全員で同じファイルを共有して、同時作業で進めることをしています。そうすると、全員が上下正しく読むことができます。

    小田:個人的には、そうした活動の際にはご指摘いただいたデメリットが含まれることが当たり前だったので疑問すらもたなかったのですが、とても共感します。盲点でした。

    (後編へ続く…)

    話し手

    前多昌顕先生 … つがる市立育成小学校(青森県)教諭。MIEE。
    Best Learnig Activity Award受賞。Flipgrid認定教育者レベル3(日本初)。他にGoogle、Apple、embotなどからも認定を受ける。NPO法人学修デザイナー協会理事。
    YouTube:MIEE MAETAのお手軽ICT活用

    聞き手/ライター

    小田直弥 … NPO法人東京学芸大こども未来研究所専門研究員。

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